アゴラに周波数の記事寄稿、「わからないものに対する拒否」を乗り越えよう

先日のエントリーの続きのような形で、「アゴラ」に700MHz/900MHz周波数の「ハーモナイズ」と「オークション」に関する感想を書かせていただきました。ご興味のある方はご高覧ください。

Good News and Bad News:700/900MHz周波数割り当てとオークション – 海部美知 – アゴラ

周波数の話は業界の外の人にはなかなか理解されないが、これに限らず、通信というのはそもそも「ブラックボックス」性が強い。コンピューターやネットは、基本的に「Do It Yourself」でユーザーのいじれる部分が大きく、「熟練ユーザー」が相当数存在し、専門的な話を理解できる人口が多い。これに対し、固定も無線も通信は「フルサービス」で、ユーザーと事業者の分界点がユーザーの手元にずっと近いところにある。仕組み全体が外からはどうなっているか見えない「ブラックボックス」のようなもので、内部の事情を理解できる人の数は圧倒的に少ない。私もそんな素人の一人だったので、その昔NTTに就職したときの研修で、電柱に張られている太い電話線の皮をむいたら、机の上の固定電話から出ている細い電話線がたくさん束になっていたので驚いた。交換機までこの線はずっと続いていると聞いてますます驚いた。水道管のように、細い線から太い線に流れこむのかと思っていたからだ。携帯電話の無線基地局の姿を目で見て認知できるようになったのは、NTTを辞めて携帯ベンチャーに転職してからのことで、それまでは「空気」のようになんとなく携帯がつながっているとしか思わなかった。かくもさように、中がどうなっているのか、ユーザーからは見えない部分が大きい。

だから、ハーモナイズにしてもオークションにしても、あるいは「光の道」にしても、「中の人」以外が議論を正しく客観的に理解するのはなかなか難しい。にもかかわらず、特に周波数に関してはまさに「政府」がとりしきるしか他にやりようがなく、だから必ずしも業界専門家ではない「政治家」、さらにはその背後にいる多数の「業界外の人である有権者」が判断せざるを得ないという仕組みになっている。これは通信というモノが抱える根本的な矛盾だ。

誰でも人間は、「わからないもの」に対しては不安になって最初から拒否するものだ。報道されているものから断片的に委員会などでの発言を読んでいると、「わからないものに対する不安」なんだろうなぁ、と感じる。メディアの報道において「欧米をはじめ、最近ではインドやブラジルでも、世界中で周波数はオークションで割り当てられていて、今やごく普通の仕組みである」とか、「世界では20年近くにわたって経験値が積み上げられていて、理論も事例もすでに豊富にある」とか、そのあたりのファクトが全く言及されないのはどうしてなのか私にはわからない。これも、例えば「DIY」のネットの世界なら、FacebookがどうしたとかEvernoteがどうしたとか、シリコンバレーで起こっていることがすぐに日本の先端ユーザーに取り入れられ、理解され、議論されるのだが、「ブラックボックス」の周波数だとどうもそうは行かないのがもどかしい。

とにかく、直接この判断に関わっている方々には「世界における経験値」を正しく理解して、「わからないものに対する拒否」ではなく、「メリットとデメリットをきちんと天秤にかけて」判断していただきたいものだと思う。

日本の外で何が起こっているのか全くわからないまま、「攘夷!」と叫んでいても仕方ない。もし私の感想が当たっているとすると、「世界全体の趨勢やその中での重み付けがわからず、判断を誤る」という、「パラダイス鎖国」の弊害の一つということになる。「ハーモナイズ」もできたのだから、どうか次の「オークション」においても、是非グローバル・スタンダードでやってほしい。やれば出来る子なんだから。

<参考>
http://wirelesswire.jp/Watching_World/201012021610.html

700MHzと900MHz周波数、世界標準に合わせることになりそう - Tech Mom from Silicon Valley
世界の4G周波数事情と周波数オークションについて - Tech Mom from Silicon Valley
「グレード別周波数ライセンス」のススメ - オークションは怖くない - Tech Mom from Silicon Valley
http://news.livedoor.com/category/vender/michikaifu/