「お天道様」じゃなくて「グーグル様はいつも見ている」という、内ゲバHPへの教訓

副題--伏魔殿HPの懲りない面々 <==秀逸ブクマコメントを利用させていただきました。

たまたま、2006年の「HPプリテクスティング事件」(ヒューレット・パッカードの取締役会が違法すれすれの方法で、ボードメンバーや報道記者の通話記録を取得していた問題)に取材した「The Big Lie」という本を読んでいたところ、同社前CEOのマーク・ハードが辞めさせられた事件が、実は同じような根っこから発生していた、というウォール・ストリート・ジャーナルの記事が昨日出た。

The Big Lie: Spying, Scandal, and Ethical Collapse at Hewlett Packard

The Big Lie: Spying, Scandal, and Ethical Collapse at Hewlett Packard

Allegations Against Hurd Included Leak of H-P Plans - WSJ

プリテクスティング Pre-texting とは、ターゲットとなる人になりすまして電話会社に問い合わせを入れ、他で入手したその人の社会保険番号を使って、ターゲットの電話番号と過去の通話記録を入手することを指す。元NTT社員の私からすれば、そんなこと絶対ダメに決まっていると思うし、見るからに違法に見えるが、この事件が発生した当時は、明確にこの方法を違法とした法律はなく、判例などから見ても明確な違法の事例はなかったのだという。

この本によると、HPでは実際にプリテクスティングをしていた(それも取締役会にきちんとレポートせず、社内の担当部署の独走でやっていた)のだが、その背景には、それまで取締役会でも社内でも、個人的な怨恨やエゴの対立に基づく足の引っ張り合いと、そのための情報リークがあまりにひどく、特に2005年前後にカーリー・フィオリーナコンパック買収と、その後のフィオリーナ解任に至る過程で、手のつけられない状態になったということがあった。これに対し、当時取締役で会長であったパトリシア・ダンが、きちんとしたコーポレート・ガバナンスのプロセスを導入しようと戦ったが、そのためにもう一人の取締役でエゴの塊でもある、有名ベンチャーキャピタリストのトム・パーキンス(Kleiner Perkins創業者)を敵に回してしまい、彼が私怨からコトをわざと大きくし、ダンを意図的に引きずり下ろす結果になった。その過程でも情報リーク合戦はますます派手になり、後手にまわったダンは、結局証拠不十分で不起訴となったが、この勝負では「負けた」形になっている。この本は、そんなパトリシア・ダン側の「反撃」ともいえる告発本で、一貫してダンを擁護する内容である。ダンはこのスキャンダルのちょうど同時期に、乳がん卵巣がんが進行して、手術とキーモセラピーを繰り返していたが、議会聴聞会での証言のときの写真などを見るととてもチャーミングで堂々としており、この本を読むとパトリシアにどうしても同情する。本当のところ、どうだったかはもちろん、私には知る由もないが。

結局、誰が重要な情報をどうやってリークしていたかという本質の部分は明らかにされず、どちらかというとマイナーな件でのリークだけが解明されるにとどまり、それよりもそのための手段がもっと大きなスキャンダルになり、HPの内ゲバ体質は全く改善されないまま、ダンがスケープゴートとなって事件は終わった。で、この本が出たのが今年の5月。そのすぐ後、8月には、フィオリーナの後任CEOであったマーク・ハードが突然辞任。すごいタイミングだ。

この本によると、マーク・ハードはプリテクスティング事件の最中も、ダンからもパーキンスからも信頼されていて、特に最後の最後まで、ダンはハードは自分の味方と思っていたらしいが、その実、事件の発生直後から、責任をダンに押し付けて自分に火の粉が降りかからないように工作していたのだという。議会公聴会直前になり、ダンはハードの裏切りにようやく気づいたという。その後ハードは会社の業績を回復させ、スター経営者としての名声を上げていた。でも辞任。相変わらずの内ゲバ体質で、きっとまた何かゴタゴタがあったに違いないと思える。

さて、マーク・ハードが辞任した際の説明は、マーケティングコンサルタントとして雇ったジョディ・フィッシャーという女性とハードが「特別な関係」にあったらしく、フィッシャーがハードに対してセクハラ被害を訴えてきたので調査したところ、セクハラの事実は見つからなかったが、フィッシャーとの会食などの費用をウソの内容で会社に申告していたということがわかり、会社の倫理規約に反することがわかったから、だということだった。

ちなみに、ジョディ・フィッシャーというのは、こんな「いかにも」な美人。
Finally! We Learn The Real Reason Mark Hurd Got Fired - Business Insider

はぁ?何百万ドルとかもらっている大企業のCEOが、食事代数百ドルをごまかす?それで辞任に追い込まれる??

ヘンな話だとしてちょっと地元の話題になり、その後ハードをもう一つの地元大企業であるオラクルが社長に迎えるということでまたひとしきり訴訟騒ぎがあったが、「ああ、またやってるな」という感じでまた忘れ去られかけていたところである。

で、昨日のWSJの記事のキモは、「マーク・ハード辞任の本当のカギは、フィッシャーに対して、当時まだ交渉中であったEDS買収の情報を漏らした件」ということだ。本当に漏らしたかどうかはわからず、また漏らした結果、フィッシャーや彼女の関係者がインサイダー・トレーディングで儲けたという明らかな事実も見つからないらしいので、この件をどこまで情報公開すべきか、取締役会でも大揉めにもめ、最終的には、この件に関してハードの取締役会への説明がころころと変わり、取締役がハードの言うことを信じられなくなった、ということが決定的になった、ということだそうだ。前にプリテクスティングの件で、情報公開のタイミングや程度が問題となったために、取締役が異常に神経質になっていたこともあるだろう。

それにしても、またまたこの記事は誰がリークしたんだろう??えらく細かいディテールが描写されているし、ソースはあいまいなまま。ザル漏れ体質は変っていないようだ。そういうワケで、これはまたコーポレート・ガバナンスと情報公開に関して、経営的には重要な示唆を含んでいる事件。

なんだけど、そんなのは置いといて、それより「ジューシー」なディテール。フィッシャーはマーケティングコンサルタントという立場だが、テレビ・タレントでもあり、その前はアダルト映画に出ていた過去がある。それについて、取締役会はハードに「そのことを知っていたか」と質問したところ、「知らなかった」と答えたのだが、内部調査の結果、ハードは「ジョディ・フィッシャー」をググり、彼女のアダルト・サイトを見つけ、そのサイトに何度もアクセスしている、ということがわかり、彼の「ウソ」の一つとなった、のだそうだ。

本当かい??いつからのサーチ履歴やアクセス履歴を保存してあるんかい??社内ネットの履歴??だろうね、まさかグーグルから情報を入手するわけないよね・・・でもよく探し出したよね・・・

教訓。とにかく、まずは「李下に冠を正さず」、特に地位のある人ほど、あやしいと思われる可能性のあるサーチはやめよう。グーグル様はいつも見ておられるのだ。