スターに学ぶプレゼンテーション術 - 「スティーブ・ジョブス驚異のプレゼン」

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン

解説を書いた外村仁さんより本をいただきました。ありがとうございます。

正直いって、私は、例えばスポーツに関しても「シャラポワのフォアハンドを盗む!」みたいな、日本の雑誌にありがちな「スターに学ぶ」というやり方が昔からあまり好きではない。(もちろん、モデルになっているスターがよほど好きである場合を除く。^^;)そんな大天才のスターのやり方が、体力も才能もない凡人の私に合う訳がない、と思うからだ。単に性格がひねくれている、とも言う。

この本も、「スターに学ぶ」という私にとっては苦手なカテゴリーではある。ジョブスは経営者・ビジョナリーとして尊敬しているが、この周辺に住む皆様ほどのアップル信者ではないし、ジョブスに関しても「好き」というほどではない。これも単に、直接ジョブスのプレゼンを見たことがないから、なのかもしれない。子持ち母親の私にとっては、前日からキャンプを張って列にならぶなど、はるかに手の届かない贅沢であり、だからジョブスのプレゼンもiPhoneなどの発売日の興奮も、実際には体験したことがない。

なので、この本を読むにあたっては、正直かなり勇気が必要であった。実際に、読んでいてあまりにジョブスを礼賛する同じ文句が繰り返される部分は、我慢して読みとばす必要があった。(ジョブス・ファンの方々には、ここがたまらない部分だろうと思うので、そういう方にはオススメ。)

しかし、読み通してみて、基礎部分になるプレゼンテーションのコツ、極意といったものは、とてもマトモであることもわかった。私はコンサルタントとはいえ、マッキンゼーなどの大手で、プレゼンテーション術についてきちんと訓練を受けたわけではない。ずっと昔にビジネススクールで習ったこと、仕事の中で先輩や仲間から学んだこと、それにあとはカンファレンスやミーティングなどで鼻から出るほどの大量のプレゼンを何十年も見続けてきた中で、取捨選択して身につけてきたものでしかない。そういう中で、最近はいつの間にか、あまり考えずに流してしまうようになったが、この本には、はるか昔に習った原則が、ジョブスというモデルを使ってきちんとカバーされていて、それを思い出して、改めて自分のプレゼンを見直している。

プレゼンテーションにもいろいろあり、どの場面でもこの本に書いてあることが当てはまるわけではない。ここで例に挙がっているジョブスのプレゼンは基本的に「商品紹介」に限られるのだが、このようにストレートに自分の意見をわかってもらうだけでなく、相手に考えさせるようにしたいとか、問題点を指摘するだけにとどめたいとか、いろいろな場面があるし、対象人数が少なければまた違うし、求められているプレゼン資料の性格も相手の要望によって異なる。私でいえば、舞台の上で演技しながらプレゼンという場面はほとんど皆無だし、準備に膨大な時間をかけるような贅沢も許されない。なので、もちろん読むほうは、必要なエッセンスを取り出し、自分なりに応用する必要はある。

アメリカ人のように、2歳のときからプレゼンの練習をしている環境(外村さんの解説にもあるし、私も子供の保育園で体験して恐れいった)ではないだろうが、日本人でもしっかり原則を押さえればよいプレゼンテーションができる。しかし、コンサル会社にでも就職しない限り、日本の学校や職場などで原則を体系だって教えてくれる場面はなかなかないので、この本はよい参考になるだろう。

なお、この本に関してもう一つ良いと思ったのが、「翻訳」である。訳者はテクノロジー業界の本を多く手がけておられるようなので、用語や表現がこのコミュニティの読者向けにこなれていて、無理なく読める。せっかく原典がよくても、日本語翻訳が直訳だったりすると読みづらいが、この本に関してはむしろ「おお、ここはこう来たか」と楽しみながら読めた。