映画サイトをやっててよかったと初めて思った

当地の昨夜、日本の映画「おくりびと」がアカデミー外国語映画賞を受賞した。この映画は、昨年秋に日本で見て、すごく好きな映画なのだが、受賞そのものよりも、私にとっては、2004年から細々と趣味でやっている英語による日本映画情報サイト、「邦画セントラル」に記事をアップするのに大騒ぎであった。

協力関係にあるロサンゼルスの日系映画情報通信社Hollywood Newswire(プレスに対して記事を配信するので、一般読者は閲覧できません)が、昨夜は授賞式前と後の記者会見の記事や写真をすばやくアップしてくださったので、こちらもなるべくすばやく英語に直して、「巧遅より拙速」ということで邦画ブログにアップしていった。こんなかんじ。英語は間違いだらけだと思うが、勘弁してほしい。

http://hogacentral.blogs.com/hoganews/2009/02/ryoko-hirosues-oscar-fashion.html
http://hogacentral.blogs.com/hoganews/2009/02/departures-team-reaction-to-the-oscar.html
http://hogacentral.blogs.com/hoganews/2009/02/departures-the-first-oscar-crown-for-japanese-live-action-film.html
http://hogacentral.blogs.com/hoganews/2009/02/departures-team-in-a-dream-come-true-right-before-the-red-carpet.html

おかげで、昨夜からわが辺境サイトには、いつものウン十倍ぐらいのトラフィックがはいってきている。といっても、普通のメジャーなサイトだったら誤差の範囲にもはいらないぐらいの微々たるものではあるが、私にとってはサイト始まって以来のヒット数。日本以外からは、.comドメインのほか、シンガポールや香港や欧州なんかのサーチから結構来てるな、などと見ながら楽しんでいる。

外国語映画賞は、アカデミーの中でも最辺境のカテゴリーの一つで、アメリカのメジャーなメディアは全くとりあげない。でも、たまたま映画祭でこの映画を見て好きだった人や、俳優や監督のファンなどが、最近ではぼちぼち世界各地に薄く散らばっている。日本語を読めないこういう人たちにとっては、このブログの情報はほとんど唯一、でないにしても数少ない情報ソースであるに違いないと思う。

思えば、5年近く前に私がこのサイトをやろうと決意したときの目的が、まさにこれだった。(最初は本家ウェブサイトのみ。その後現在のブログも加えている。)2004年の同じ時期、日本映画「たそがれ清兵衛」が同じくアカデミーにノミネートされた。受賞は逃したが、その後アメリカでも公開された。しかし、日本での騒ぎとは裏腹に、アメリカのメディアでは全く取り上げられることもなく、またネットを探しても、英語情報は載っていなかった。製作・配給会社の松竹も、あまり海外に対するPRが手馴れていない様子だった。その前後、中国や香港の中国語映画がどんどんアメリカで公開され、その情報はいくらでも英語ではいってくるのに、と残念な思いだった。

私はこの映画がとても好きで、一般の話題にはならないながら、映画業界人にはアメリカでも評価が高かった。たまたま日本の友人に頼まれて、アメリカの新聞に載った映画評をネットで集め、いくつか日本語に翻訳したので、ついでだから、山田洋次監督に、「アメリカでは、せっかく評価が高いのに、宣伝が足りないようで、残念」というファンレターをつけて送ったところ、なんと監督ご本人からお返事をもらってしまった。監督は、アメリカの新聞の映画評が、「評論」としてしっかりしていて、しかも作品に愛情をもってくれていることに感激した、と仰ってくださった。意外だったのは、この程度の有名新聞の評論ぐらいは、監督なんだから映画会社が「すごくいい評判ですよ」ぐらいの話は知らせているんだろうと思っていたが、全くご存知なかったことだ。

そんなこんなで、私は驚愕し、また映画業界というのは、なんだかよくわからないところだ、という感想と興味を持った。そして、もし映画会社がやらないなら、私がファン仲間のためにいっちょやるか、と思って、「邦画セントラル」というサイトを始めたワケだ。まぁ、あの頃は今よりもうちょっと暇だった、というのもある。

その後歳月を経て、私自身も忙しくなってしまい、サイトは一時お休みしたこともあり、今でもたまにしか書けないが、いろいろな方のサポートや励ましを得てここまで細々とやってきた。それでも、一体誰が読んでいるんだろう・・・と思っていたが、ようやく今回、「世界のどこかで、誰かが読んでいる」という実感を得ることができた。それに、こうしてすぐに使える情報がはいってくるのも、これまで細々とでも続けてきて、わずかだがHollywood Newswireのような人脈をつくってきた成果だ、と思うことができた。

松竹も、このときの経験を生かしてか、最近は海外PR担当者が積極的に情報を流したり、プレスイベントに招待してくださったりするので、特に今回の「おくりびと」については(これも松竹)、意識して継続的にニュースをカバーしてきた。おそらくは、アカデミー会員に対するPRや海外プレス対応なども、前回の「清兵衛」のときよりもずいぶん積極的にやったことだろう。今回の受賞には、こうした松竹の努力も貢献しているのかもしれない、などとも思っている。

継続は力。やっててよかった、とようやく思えた。