きわめてミクロな少子化対策

なんだか今日は、「はてブ」で少子化の話が花盛りのようだ。こういう話が出ては、Tech Momとしては黙っていられない。

ごちゃごちゃ言ってないで生んで欲しけりゃ金よこせ。 - 想像力はベッドルームと路上から
父親になってわかった子供のつくりにくさ

いろいろな見方があるのはいいのだけれど、結論が「国がどうしろ」「社会をどうしろ」という話になっちゃうのがちょっと違和感。いや、そういう話もしなきゃいけないんだけれど、私自身は、仕事としてもいつも「ウチの会社・ウチの部門はどうすべきか」といった、ミクロな話ばかりに付き合っていることもあるし、また、どんなに騒いだって社会なんてそう簡単に変わらない、自分はどう頑張っても政治が味方してくれるようなマジョリティにはなれない、ということがわかっているから、「マクロ」的な意見を作文に書くのはあまり好きではない。それで、またミクロの話をする。

アメリカは、ヨーロッパみたいに子供に対する対策は手厚くない。医療も、保険も、保育園も、お金がかかる。確かに、出生率の高さはマイノリティと宗教に支えられている面もあるだろう。でも、生活感としてはそれだけでもないような気がする。一つは、前に書いたような「育児基準の甘さ」ということもある。

もう一つは、「ベビーシッター」という潤滑油があることだと思う。これは、制度化されているわけでも、商売として組織されているわけでもない。ただ、近所や、子供の通う空手教室で、高校生や大学生のお兄さん・お姉さんを見つければ「ベビーシッターやってくれない?」と頼み込んでまわるだけである。お母さん仲間で、「この子はいいよ」などと情報も交換する。学生のほうも、「iPhoneがほしいから、アルバイトしたいな」と思えば、近所に「ベビーシッターやります」と張り紙して回るだけである。

もちろん、きちんとした雇用をするプロのベビーシッター(そういう場合はナニーというが)もいるし、派遣会社もあるけれど、これらがカバーしきれない、ちょっとしたニーズは、こういったカジュアルなベビーシッターが埋めている。小さな赤ちゃんだと、高校生に頼むのはちょっと心配だが、少し大きくなれば、あるいは数時間の話だったら、構わないということもあるだろう。「学生などのベビーシッターのアルバイト」が存在することで、母親の「閉じ込められ感」は、日本の感覚からすると相当少なくて済む。

2歳の子供を置いて、就職面接のために数時間どうしても出かけなければいけなくなったら、どうするか。夫は不在がちで、自分は全く行動の自由がなくて煮詰まっているお母さんが、息抜きにちょっとエステに出かけたいと思ったらどうするか。たまには週末に夫婦だけでレストランに行きたいと思ったらどうするか。別に、公的援助も何もいらない。プロに頼むよりはずっと安くすむ、アルバイトのベビーシッターに頼めば、解決する問題というのはあるんじゃないだろうか。

子供を託すのだから、信用は大事である。だから、ネットで探すよりは、評判のわかりやすい、ご近所ベースのほうが、親としては安心である。技術やネットや商売では解決しない。制度化などしたらかえって面倒。だから、きわめてミクロの話である。お母さんと学生の双方がやる気になれば済む話なのだ。

こう書くと、「いや、日本ではこういう文化だから・・」とか「他人を家に入れるのは云々・・」と反論が出ることだろう。わかっている。だから、普及していないのだ。でも、一人のお母さんと一人の学生の意見が一致しさえすれば、実現することなのだから、たまたまそういうニーズを持つ人同士が出会えばいいことだし、そういうニーズは少ないかもしれないが、あるだろう。

危険を承知で小さい子供を家に置き去りにしたり、お母さんが煮詰まって家族の関係にヒビがはいったりすることと、他人(といったって、大体は顔見知りの子だが)を家に入れる抵抗感と、どっちが重大な問題だろうか。

社会全体の「子育ての不条理」の量に比べて、アルバイトのベビーシッターで解決する問題はあまりに少ないだろう。でも、あまり敷居の高くない解決策だし、いざとなったら誰それに頼めばいい、なにがなんでも自分ひとりでやらなくてもよい、という「安心感」は母親にとっては大きい。ほんの少しの間、肩の荷物を誰かが代わりに持ってくれるだけで、心の重荷はずいぶん軽くなるのだ。

大上段に構えていつまでたっても先に進まないのならば、まずはちょっとずつでも、できることからやってみたらどうだろうか。特に日本の場合、小学生になれば、自分で学校まで歩いて行き、高学年にでもなれば、留守番もお買い物も自分でできる。それまでの、ほんの数年の間の話。税金をたくさんかけて保育園を建てるのもいいが、ちょっと融通を利かせることで解決できるなら、ベビーシッターのアルバイトも、もっと普及したらいいんじゃないか、と思う。