今井賢一著「創造的破壊とは何か」−私の本で食い足りなかった方に

創造的破壊とは何か 日本産業の再挑戦

創造的破壊とは何か 日本産業の再挑戦

私の「パラダイス鎖国」では、「それでは日本はどうすればよいか」の方策について書かれていない、との批判がいくつかあった。それは覚悟の上のことで、経営コンサルタントという私の立場では、個別の企業や個人が「どうすればよいか」という解はケースバイケースであり、また政府がどうすれば、という話は普段からあまり考えていない。新書の新人ライターとしての私には、本のために特別に、一般的な話として抽象化したりきちんと考察したりするほどの時間はなかった。

この今井賢一先生からいただいた最新刊「創造的破壊とは何か 日本産業の再挑戦」では、私が漠然と体感していることや考えていることが抽象化され理論化されている。タイトルの「創造的破壊」は、20世紀前半の経済学者ジョゼフ・シュンペーターの用語であり、彼はアントレプレナーが果たす役割や「イノベーション」の概念を経済学に持ち込んだということだ。

グーグルなどがネット上で無料でサービスを提供する現象を「橋の通行料をいくらに設定するか」という理論で説明する、研究開発投資を「将来の事業売り上げというポテンシャル・ペイオフを得るためのオプション」として金融オプションの値段付けの理論を当てはめる、など、最近の新しい産業動向やベンチャーなどについて、なるほど、そうか、理論的にこんなふうに説明することができるのか、と私にとっては目から鱗の話が多い。

一方、現在の日本の産業の状況や、問題の打開策については、今井先生がご自身で体験されたり目にされたりした実例を引きながら、何か一つの決定打というより、現状をどういう異なる見方ができるか、どんな新しい動きが実際にあるか、といった例をいくつも挙げておられる。

「プロジェクト」「プラットフォーム」「ルース・カプリング」、漸進的な進歩ではなく「ジャンプ」など、示唆に富むポイントが多い。「あー、今井先生、シルク・ド・ソレイユがお好きなんだな」などとほほえましい部分もある。

学者の本なので、ミクロ経済学に多少とも心得のない方にはちょっととっつきにくいと思うが、私の「パラダイス鎖国」で食い足りない思いをされた方には、オススメ。ただ、この本にしても、魔法の処方箋が書かれているわけではない。やはり最後は、種々のレベルでのアントレプレナーの「創造的破壊」なのであり、それをいかにして引き起こしていくのか勝負なのかな、と思う。

なお、参考文献リストや関連資料は、下記の今井先生のウェブサイトに掲載されている。
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パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書 54)

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