「税金を上げろ」という住民運動

学校のPTAから、今日も今日とて一斉メールが来ている。中味を亭主に説明した。

私「パーセルタックス(市に対して払う不動産税)を上げろ、という話で、タウンミーティングがあるんだって。」
亭主「え?誰が?シュワルツネッガーが上げろって言ってるの?」
私「いや、そうじゃなくて、これはウチの市の・・・」
亭主「市当局が言ってる?」
私「いや、そうじゃなくて・・・州の教育予算が足りなくて、毎年毎年大騒ぎで寄付金集めしているよね。でも、これはもう一過性のものじゃないから、パーセルタックスを上げて、継続的にお金が集るようにしよう、って、ウチの学校の親たちが運動を始めているんだよ。」

そう、我々日本人の感覚では、「税金とは、お上が下々から徴収するもの」であって、「住民が自ら、税金を上げてくれと運動する」という事態は想像しにくいのだ。論理を飲み込むのに、ちょっと時間がかかる。でも、アメリカではこういうこともある。わが市では、数年前にも同じような運動をやって、新しいパーセルタックス導入に成功している。

そもそも、学校の予算のうち、だいたい3分の2を州が、残りを市が負担する、というのがこれまでの通例だったようだが、ここ数年、州が赤字削減のために教育予算をカットするという話が毎年出て、そのたびにわが学区でも大スクランブルで、手紙キャンペーンで反対運動をしたり、足りない分を寄付で集めたりしている。毎年真っ先に、予算削減でカット対象になるのが、「学校の図書室」(ライブラリアン)、理科の専門の先生、音楽の先生、そしてリーディング・スペシャリスト(読むことが遅れている子供を特別にケアする先生)である。もう、ほとんど毎年恒例の話。

恥ずかしながら私は、なぜ毎年カリフォルニア州の予算がこんなに赤字になるのか、ちゃんと調べたことはない。バブル崩壊の頃は、企業の業績悪化で、法人税が減ってるんだろうと思っていたが、なぜ去年・今年もそうなのか、完全に納得はいっていない。学校でこういう問題のミーティングに行って質問しても、実はちゃんとした答えは返ってこない。だから、「州政府はこうすべきだ」というビッグ・ピクチャーは見えていない。PTAで運動をやっている人も、実はそうじゃないかと思う。「理科の先生がレイオフされるのをなんとか防がねばならない」という目の前の問題を解決しようというレベルで考えているだけだ。

寄付金ならば、自発的に寄付する人だけがやればいいので問題は少ないのだが、税金となると、子供のいない家庭は反対する。反対する人を説得できるように頑張ったり、賛成者をなるべくたくさん動員するなどの、ポリティカルな活動が必要になる。

反対者に対する論理として強力なのは、「資産価値の維持」。学校のレベルと、不動産価値のレベルは、直結している。現在、ここにも書いたように、わが学区は、最近評判がよくなったらしく、引っ越してくる人が増えている。つまり不動産価格が上がる。たとえ子供がいなくても、学校のレベルを維持することには、共通のインタレストがある、という論理だ。そして、学校のレベルが下がれば、不動産価値が下がり、低所得の住民が流入し、治安が悪くなる。この負のスパイラルにはいったら、持ち直すのは大変である。だから、協力してちょうだい・・

ある意味で、「お金持ち学区」の論理、でもあろうと思う。まぁしかし、苦労して家のローンを払っている身としては、学校のレベルが下がるのも、低所得住民が流入するのも、正直言って困る。社会全体の「全体最適」から考えたらいけないのかもしれないけれど、とにかく自分の身を守らなきゃいけない。

だから何、ということもないのだけれど、日本では「年貢」発言で大臣がつるし上げられているという話を読んだのと同時に、この話がメールボックスにはいっていたので、どっちもどっちの「なんだかなぁー」と思った次第。