無線版「サムライの帰還」?

最近パートナーとなった、The Shosteck Groupの今月のニュースレターに、私と同社CEOであるJane Zweigが共同で、下記記事を執筆いたしました。ベース情報は私が担当し、アメリカ・ヨーロッパの視点からJaneが見た分析が加わって、ハイブリッドになっています。

http://www.shosteck.com/?p=90

過去のアーカイブも見られます。いろいろ面白い話と辛口の分析が読めますので、どうぞご利用ください。

下記、この日本語版です。

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ソニーエリクソンの最近の財務発表は、携帯電話端末産業が、新興国の牽引する新しい時代に完全に突入しているという事実を、再確認するものであった。同社は、わずか数四半期前には、サムスンと世界市場シェア第三位を争っていたが、この発表ではLGにも負けて第五位までずり落ちている。ソニーエリクソンがよい製品を出していないわけではない。中位〜高位端末ではしっかりした製品ラインアップがあるのだが、新興国向けの低コスト・エントリーレベルの電話がない、からである。現在は、あらゆるレベルの顧客に対して、大量に生産してそれをさばく能力のあるメジャーなプレイヤーしか、利益を出すことができなくなっている。ハイエンドニッチ向け戦略は、風の前のロウソクに等しい。

携帯電話の短い歴史を振り返ると、90年代のアナログ時代には、パナソニックNEC、沖、富士通といった日本製端末が世界で活躍していた。1997年には、国別シェアで日本は33%でトップだったのである。しかし、日本メーカーは、海外市場で特にGSMでのデジタル移行に乗り遅れ、その後は国内専業に後退してしまった。韓国メーカーが国内市場で先進的なものを作って輸出することができたのに対し、日本は技術標準や周波数の違いなどがあり、そのまま海外で売れなかったのである。

さらに、日本メーカーは、複数価格帯で複数プロダクトを提供することの重要性を認識しなかった。キャリアは当時も現在も限られた「シェルフ(棚)・スペース」しか持たない。このため、ベンダーは販売スペース確保のために十分な種類の端末を供給することが必要になる。皮肉なことに、この方式を推進したのはモトローラであった。現在の苦境から脱するには、まず同社は自分の過去から教訓を学ぶ必要がありそうだ。

現在、日本メーカーは世界で5%程度しかシェアを持たず、そのうち約半分が国内向け(ノキアサムスンモトローラ・LG・ソニーエリクソンのトップ5社は、85%が国外向け)という、マージナル・プレイヤーとなっている。開発コストは高くなり、キャリアは数々の無線方式や周波数に対応するよう要求する。いずれもお金がかかることであり、日本メーカーはこれを負担しきれなくなっている。

日本の携帯市場そのものは、しばらくの間、繁栄を享受していた。順調に成長していたし、またiモードなどのデータサービスでも世界の先端を行っていた。このため、国内市場だけでも10社以上のベンダーが生息することができた。ドコモは世界最初に3Gを開始し、ベンダーもそれをサポートして、世界市場でもその実績と信頼を築くことができると期待ていた。キャリアの潤沢な販売補助金も手伝った。

しかし、国内市場の飽和が迫ってきた現在、ベンダーも世界に目を向けることを余儀なくされてきた。その間に世界市場は先に行ってしまい、細分化された日本メーカーは、小さな生産量と貧弱な販売網という状態で置き去りにされている。日本以外のプレイヤー、ノキアモトローラサムスンなども日本に参入している。日本メーカーは、財務的にも営業的にも苦境に陥っている。

日本メーカーも手を拱いているわけではなく、リストラクチャーへのプレッシャーは高まっている。三洋電機は携帯端末部門を京セラに売却し、三菱電機は撤退、ソニーエリクソンもドコモへの供給をストップした。コスト削減のために、共通プラットフォームを利用するコンソーシアムも設立されている。しかし、これらの努力にもかかわらず、日本メーカーがかつてのアナログ時代の栄光を世界で取り戻すことは、市場シェア・マージン・利益のどの観点からも、残念ながらおそらく無理であろう。

かといって、日本メーカーには何も残っていないわけではない。先進国市場の将来を見越すと、様子は少し違って見える。例えば、最近ニコンパナソニックが、WiFiを内蔵したカメラを発表した。アマゾンの電子書籍Kindleや、クラウド・ソーシング型GPSナビDashなどは、いずれも携帯データ機能を内蔵している。

これらの無線組み込み型家電が、それぞれにどの程度商業的に成功するかは未知数であるが、業界全体の趨勢として、組み込み型に向かうことは避けがたい時代の流れである。その新しい角度から見ると、家電メーカーとして大手である日本メーカーは、無視することができないのである。

これらの日本メーカーは、賢く立ち回って過去の経験から学ぶ必要がある。韓国や台湾のベンダーも世界市場で激しく追い上げている。日本メーカーはまだまだブランドイメージが高いとはいえ、これらのアジアの競合相手のブランド認知は上がってきている。そして、現在家電分野で着実に地歩を築いているノキアも忘れてはならない。この世界では、どのベンダーも「安全」ということはありえない。ゲームの基本ルールは、規模とマージンである。日本メーカーは、消費者の行動や、繊細なデザインの重要性を理解している。あとは、規模とマージンをどう確保するかというパズルのピースを見つけ出すことである。