CTIA雑感

先週のラスベガスCTIAについての全体の感想を書き記しておく。

現在、「世界の携帯電話業界の潮流」は、ヨーロッパが中心で、展示会という意味でも、2月にバルセロナでやるMobile World Congress (MWC、旧3GSM)のほうが、断然注目されるし、だから新しいものも展示される。新興国市場の台頭で、GSM世界が急速に広がり、その頂点であるMWCの重要度はますます高くなり、一方でGSM世界からはちょっと外れるアメリカの「田舎」感はますます増大している。

特に、数年前にCTIAのCEOが代わってから、CTIA展示会で登壇するキーノートの質が落ちたようにも思う。今年はまだよかったが、去年など、目を覆うばかりのつまらなさだった。各社とも、CTIAに合わせて新サービスを発表するということもなくなってきて、展示もどうってことないものが多くなっている。

それでも、アメリカで商売をする限りにおいては、CTIAにはやはり皆集るので、ミーティングのために人が集まる。もともとは、細分化していたアメリカ各地の携帯電話キャリアの人たちが、みんなで集って、ローミング交渉などをする場だったのであり、また最近ではSMSの相互接続などをCTIA組織が音頭をとってやったり、といった、そのための場である。ヨーロッパ人でも、アメリカで商売をしたい人はやはりやってくる。私も、毎日のようにブレックファスト・ミーティングがあるので、キーノートは初日しか聞けなかったし、展示は全体的な感じしかつかんでいない。

つまりCTIAは、アメリカという、巨大ながらそれだけで閉じた「パラダイス鎖国」的マーケットにおける集会所、なのである。だから、バルセロナのほうがすごいとか、CTIAはつまらないとか、そういう批判はあまり意味がない。新しいものの展示を見ようと思ったらバルセロナに行けば事足りる。でも、アメリカで、人脈を作り地歩を固め、商売をしていこうと思う人は、やっぱり今でもCTIAに来なければならないのだ。

今年は大手インフラメーカーの展示がLTE中心に明らかにシフトし、アメリカもまた、無線技術的にはヨーロッパ中心の「本流」へと巻き取られつつある傾向が見える。(WiMax陣営もいろいろ頑張っているが。)また、少し前にはCTIAでプレゼンスの見えたいわゆる「ネット企業」の存在が小さく、アメリカの強い部分である「ネット」の技術やサービスが、一時やや歩み寄りを見せたのに、また離れつつあるようだ。大手ネット企業でいえば、展示ブースを出しているのはマイクロソフトとヤフー程度で、グーグルもアップルもインテルもいない。携帯電話業界とネット業界との関係は複雑だが、一般的にはまだまだ敵対関係だったり、無縁だったり、そんな感じが強い。

それは、アメリカの携帯電話業界で伝統的な音声の部分が強く、特に最も重要な大都市で、音声帯域の圧迫を恐れて、データが帯域を大容量消費する世界に思い切って舵を切れない、という大手キャリアの事情もある。音声が中心という市場の状況も、人口が拡散していて車社会である、というアメリカのライフスタイルも関係しており、一概にキャリアが悪い、と決め付けられないところもある。

そんな事情を抱えつつ、好むと好まざるとにかかわらず、「ヨーロッパ中心の世界」から置き去りになりつつある「パラダイス鎖国アメリカ、という印象がある。どこかで、ネット企業との折り合いをうまく見つけ、ネット世界との歯車がうまく回りだすと、この「田舎感」から脱却できるのかな、とも思う。

さて、もう一つの「パラダイス鎖国」組である日本だが、どなたかのブログで「日本メーカーの展示はゼロ」との話があったが、そんなことはない。ただ、「メイン会場」でなく、「サブ会場」であるノース・ホールに全部まとまっていただけだ。ノース・ホールには、周辺機器(テスターとか、タワーとか、部品とか・・・)などのメーカーが集っている。(こっちまで見てない人が多いんだよね・・・私が会った某アメリカの業界人も「え?日本メーカー全然なかったじゃん?」みたいに言っていた・・・泣)

サブ会場入り口はいってすぐのところには、京セラが大きなブースを出していた。大手端末メーカー(ノキアモトローラサムスン、LG、ソニーエリクソンなど)はメイン会場にあり、やはりノースは田舎ではあるのだが、製品はなかなかいいものを出していたと思う。ただ、この「いいもの」というのは私の感想であって、必ずしもキャリアが望むのもではないのかもしれない。例えば、サムスンとLGでは、なにしろ「iPhoneのマネッコ」端末ばっかりなのだ。大手キャリアは、こういうものを作れ、といっているのだろうな・・と思われる。ユーザーの嗜好よりも、キャリアの都合が見え隠れして、困ったもんだと思う。(この話は、また別にどこかで書きます。長くなるので・・)

このほか、NTTドコモのほか、メーカーでは富士通NEC東芝、日立、アンリツなどが、いずれもノースホールにブースを出していた。まー、あんまり人が集まってはいなかったけれど・・・

よく、新聞で「日本のメーカーは、携帯電話の中味の部品では、高い技術を持っていてシェアも高い。それでもいいじゃないか」といった論調がある。ただねー、こういうCTIAでの扱いなどを見ていると、やっぱり「自社ブランド」で売れるところが強いよな、日本メーカーはさびしいよな・・・と思ってしまうのだ。あれだけ図体の大きいモトローラが苦戦しているなど、大変な世界ではあるのだけれどね。そりゃ、私もよくわかっているのだけど。これは、単なる感想。

ますます話が拡散したけれど、以上、覚書ということで。