「あなたに会えてよかった」

私と同じくワーキングマザーの方が、「パラダイス鎖国」本の感想をブログに書いてくださった。その中で、「人を育てることというのは、相手が育っていくプロセスそのものがインセンティブ」という考え方がすごくいいな、と思って印象に残った。

2008-04-04

この中で、「あなたに会えてよかった」という言葉が出てくる。異質な他人と関わることは、実はラクなことではないのだけれど、それはそれ自体で価値がある、と私も思う。"Nice to meet you" "It was nice talking to you" という英語は、社交辞令として普段何気なく使っているけれど、日本語で「あなたに会えてよかった」とはなかなか気軽に言えない。それでも、日本語でもそう言いたくなるような、出会いがたまにある。金銭的な見返りがあるわけでもなく、ただ、会ったこと、話したことそのものが、価値がある。

CTIAの帰り、ラスベガス空港のDターミナルは、座って食事ができるところが一ヶ所しかないので、混んでおり、長い列がなかなか進まなかった。列で私の前に並んでいたのは、いかにもヨーロッパという感じの紳士だった。彼の番になったとき、後ろにいる私を振り返って、「よかったら相席でどうぞ」と言ってくれたので、ありがたく一緒の席に座らせてもらった。

一応「伝票は別にしてね」と頼んだ上で食事を注文して、私はいつもなかなか読む暇のない「日経コミュニケーション」なぞを読んでいた。彼は、ホテルの明細書を見ながらあちこちに電話していたが、ホテルはラスベガスでも最高級のホテル、話しているのはドイツ語、使っているのはノキアの最高機種のスマートフォン。だいたい電話からして、私の、3年近く買い換えていない、一度はトイレに落としたのに不死鳥のように甦って使い古している、韓国製の安物とは違う。*1間違いなく、ヨーロッパの偉い人だ。

食事が運ばれてきたので、自然と話をしだした。CTIAに行っていたんでしょう、どうでした?から始まって、名刺交換したらやはり、某大手ヨーロッパ企業のエグゼキュティブ。少し前に別の会社と合併していたので、合併のあとどうですか?と聞くと、Very differentだ、だから実は、明日が最後の日なんだ、という。来週からは、別の上場会社に移るので、火曜日になったら名前を検索してごらん、きっとニュースに出るよ、という。ますます、偉いひとだ。ふぅむ。

でも、韓国製安物ケータイを使う零細コンサルタントの私に対して、彼は親切にいろいろ話しかけてくれる。ひとりでやってるのは大変じゃない、とか、お客さんはどんなところ?とか、当たり前の話だけれど、その偉いひとが、やさしい笑顔で他愛もない話を私相手にする。

最後には、さりげなく私の伝票までピックアップして、払ってくれてしまった。申し訳ないと一瞬思ったけれど、あまりに自然な動作だったので、抵抗する間もなし。

さぁ、もう行かなきゃ、という彼に、社交辞令でなく、本当に心から、"It was very nice meeting you"と言った。別に、彼の新しい会社から仕事をもらおうなどと露ほども思っていないし、彼との話でなにやら重要な情報を得たわけでもなんでもない。でも、彼と話したおかげで、まずいチキン・ケサディーヤのランチでも、心があったかくなるような1時間を過ごすことができた。本当の素敵な紳士だった。私も、ああいう大人になりたい、と思う。

「あなたに会えてよかった。」大げさでなく、気軽にこういう内容が言える日本語がないものかなー、と思う。

*1:言い訳すれば、高い電話を使っていて、子供にいたずらされて落としたり壊したりされたらたまらないから、という理由もあるのだ。ただ貧乏なだけ、というのもまーあるけど・・・