「アイピーモバイル」、「パイレーツ・オブ・カリビアン」と「テレコム大航海時代」

日本では、アイピーモバイルの件で、まだもめ続けているらしい。下記のエントリーは、この件の経緯をわかりやすくまとめてあり、ご意見も的を得ていると思う。

ベンチャーの苦悩: アイピーモバイルの場合 - シリコンバレーの日々

私は、関係者にあまりに近いために、敢えてこの件については沈黙を守っていたのだけれど、以前書いた下記エントリーにあるように、「通信事業への新規参入」や「通信業界構造のあるべき姿」について、最近いろいろ考えるところがあるので、一般的な点だけとりあえず書いておきたい。下記のエントリーにある、「私がかつて経験した携帯ベンチャー」とは、いったんアイピーモバイルの株主になって、今回再度株を手放すこととなった、ネクストウェーブ社である。

日本におけるテレコム新規参入の難しさ - Tech Mom from Silicon Valley

1996年といえば、アメリカで携帯が本格的にデジタル移行した1998年の少し前で、まさに業界構造の「不連続点」であった。ベンチャー参入による競争促進を狙った法律に守られ、また構造的・技術的な「不連続点」の時期に合わせて、ネクストウェーブは創業した。それでも、巨額の資金の必要な通信インフラの業界ではありとあらゆる障壁があり、結局はサービス開始に至らず、ものすごい紆余曲折を経て、現在のネクストウェーブは「技術ベンダー」となっている。

MCIが登場した80年代半ばと、レベル3、クウェスト、グローバル・クロッシングなどのバックボーン系キャリアが勃興した90年代半ばというのは、電話100年の歴史の中でまれに見る「テレコム大航海時代」であった。しかし、この大航海時代はそろそろ終わろうとしているように思う。ベンチャーには、もう当分チャンスはまわってこないと思っている。バブル崩壊により、通信のマージンは新興業者を許容できるほどの幅はなくなった。また、現在の焦点であるアクセス系(ブロードバンドと無線)では、バックボーン系と比べて、潜在顧客一人あたりの投資額が大きいために、資本力があり長期にわたる資金回収に耐えられる事業者でなければ無理で、ベンチャーにはなじまない。90年代半ばですらダメだったのに、今はますます環境が悪い。MVNOも、一般的にはマージンが薄すぎて難しい。

死屍累々、アメリカのMVNO - Tech Mom from Silicon Valley

アメリカでは、すでにこうした時代の流れに合わせて、競争政策の枠組みを「大手同士の少数競争」へとシフトしている。日本では、まだそこまではっきりしていないけれど、モバイルWiMaxなどを見ても、結局はそういう方向に動いていきそうだ。また、そうあるべきだと思っている。

先日、日本に行く飛行機の中で「パイレーツ・オブ・カリビアン」の最新作を見た。「1」も「2」も見ていなかったので、話はサッパリわからなかったのに、なぜか引き込まれてしまい、こちらに帰ってから全部を見通した。もちろん、なんといってもジョニー・デップ演ずるジャック・スパロウ船長の魅力、なんだけれど、それ以上になんだか琴線に触れるものがある。いくつかあるのだけれど、その一つが、この映画の時代背景である、「東インド会社による支配の拡大、海賊が活躍できた大航海時代の終わり」ということ。通信業界でも、「東インド会社」の支配はますます強まっている。寂しいけれど、時代の流れはいかんともしがたい。

東インド会社の支配を破ったのは、アメリカという巨大な新興国であった。テレコムの東インド会社たちにとって、「アメリカ」にあたる最大の「脅威」は、異なるレイヤーから挑んでくる「グーグル」のようだ。グーグルがそれに成功するかどうかはまだなんともいえないが、現代の「パイレーツ」たちは、正面から東インド会社に挑むのでなく、違うレイヤーに活躍の場を求めたり、東インド会社とうまくやっていきながら自分の目的を達成するよう仕組む、といった工夫が必要になるだろう。