豊かな時代の究極の楽しみは「クリエイトすること」、それがWeb2.0

昨日はWeb2.0EXPO会場で、日本から来た友人たちと何人も会えた。皆、シリコンバレーの元気さ加減を羨ましく思っている口ぶりだったので、「でも日本も景気いいじゃん、最近は何が面白いの?」と水を向けても、あまりパッとした答えが返ってこなかったので、ふぅむ、そんなものか・・・と黙った。

その中で出た話に、「最近のティーンは何が欲しいのかわからない、と困っているメーカーが多い」との話があった。昔の私たちの世代だと、車だとかオーディオだとかギターだとか、そういうものが欲しくて一生懸命アルバイトしてお金をためたりしたものだが、今のティーン世代はそういったものを買いたいと思わない。せいぜい、ゲーム機とケータイがあればいい。パソコンは親が持っているか学校にある。何やってるかというとケータイでメール送っているだけ・・だという。

まー確かに、ウチの子供たちを見ていても、具体的なモノを買いたいという要求は最近あまりない。前にこのブログで「KAGOY(Kids Are Getting Older Younger、子供が早く大人になってしまう)現象」について書いたが、小学校4年生の息子も、レゴとゲームソフト以外の玩具はもうここ数年ほとんど買ったことがない。この日本の友人が言っている現象は、わかるような気がする。かく言う私だって、もともと買い物ギライで、モノを買うと保管場所やメンテナンスが大変だから、なるべくモノは持ちたくない人間だし。(・・とアメリカ人の男性の友人に言うと、「羨ましいなぁ、ウチのワイフとは大違いだ」と言うけれど。だは。)

ある面では日本よりもさらに豊かでモノがあふれているアメリカの若い子たちが、じゃぁ何を面白がっているかというと、何かをクリエイトすることかな、と思う。YouTubeのビデオやブログだけじゃない。昨日のエントリーにあるように、本格的に投稿する人の数はすごく少ないのだが、例えば「アメリカン・アイドル」があれだけ社会現象になるのは、自分たちで投票することでスターをつくりあげるという、一種のクリエーション・プロセスへの参加感があるからだと思う。MySpaceやYahoo Groupなどでも、既存のグループに参加することから始まって、次第に自分でコミュニティを作り上げていくことがヤメラレナイ面白さなのだ、という意見が、Web2.0EXPOのSNSに関するセッションでも多かった。Web2.0に関しては「人とつながること」「コミュニケーション」ということがよく言われ、それもあるけれど、究極的には「それによって今までなかった何かができあがること」「これまで手が届かないと思っていたことに影響を及ぼせること」「それがすぐに実感できること」の面白さが一番なのではないかと思う。

これまでも、優れた才能のある人やぬきんでたリーダーシップのある人なら、ネットの力がなくてもそれができたが、それ以外の人は、決められた仕事を黙々とやる以外になく、与えられたものを黙って受け取るしかなかった。でも、テクノロジーは、これまで限られた人にしか許されなかったことをより多くの人にできるようにしてくれる。コンピューター、ソフトウェア、ネットなどの力で、これまでよりも圧倒的に多くの「普通」の人たちも、クリエーションの楽しさに触れることができるようになった。

だから、今までのように「メーカーが何か作って、消費者に与える」「○○○ー○事務所がスターを作って視聴者に与える」という一方向だけの流れでは、もう面白いと思えない世の中になったのではないかな、と思う。だから、Wiiが受ける。日本でも、ケータイだけで書いた「ケータイ小説」が人気だそうだが、できた小説が「大人」から見てどういうクオリティか、というのはここでは問題ではないのだ。クリエイトすること、それをいかにやりやすく、面白く、なるべく多くの人にできるようにするか、それをどうやって「ねぇ、ママ、見て見て」ができるようにするか。それがポイントのような気がする。

豊かな時代に育っていない私には、今ひとつ実感がなかったのだが、一足先に飽食の時代になっているアメリカの、その中でも最先端のシリコンバレーWeb2.0系の連中の熱狂をここ数日見ていて、なんだかわかった気がした。SNSやブログ・ウィジェットなどの個別の話だけではない。Web2.0という、一種の新しい社会プロセス、新しいビジネスモデル、新しいビッグなもの、新しい考え方、既存の大企業や著作権ロビーや権力に対してバランス勢力となるような、新しい潮流や新しいコミュニティを自分たちの手で作り上げること、大きくすること。これまでよりも一桁少ないお金で起業する小型アントレプレナー、しこしことソフトウェアを書いているコード・モンキーくんたち、自分のポッドキャストを始めた14歳の少年、そういう子供を育てている親、SNSをなんとか継続可能な商売にしようとしているビジネスマン、皆それぞれの立場で「アメリカンアイドルの投票者」として、プロセスに参加している、何かを作り上げている。これまで自分一人の力では手の届かなかったものに、なんらか力を及ぼせる、その手ごたえがある。彼らはそれに熱狂しているのだ。

Web2.0EXPO最終日の今日は、ベビーシッターが確保できなかったために、キーノートの後半だけを聞いてそそくさと帰った。一番聞きたかったのはJoostで、とりあえず画面のデモを初めて見たが、「P2Pでどうやってあれを実現するか」という肝心の話は全くなかったので、まぁそんなもんか・・

Joostのメニュー画面