「ケータイ文化先進国」---「アメリカのトレンド」とスマートフォン

こちらのエントリーを大変興味深く読ませていただいた。このエントリーの前半部、CNETに出ていた部分は前に読んでいたけれど、後半のSidekickに関する部分が、とても面白かった。

http://www.tarosite.net/2006/08/post_623.html

なぜかと言うと、「Sidekickは若年層に結構売れてるよ」という話は業界で聞くけれど、実際に使っている人を目撃したことも、ネット上でも見聞きしたこともなく、それは私は普段、Sidekickがターゲットとしているような年齢層の高校生・大学生と全く接触がないからなのだ。

私の生きている世界は、職業を持つ大人(20代から50代ぐらいまで)およびその配偶者か、子供(小学生以下がほとんど)か、どちらかしかいない。我が町はそういう年齢構成の家庭が多く、そのほかシニア向けハウジングもあるが、それはそれで隔絶されたところにあり、シニアの方はスーパーマーケットなどでお見かけする程度。(ちなみに、黒人もほとんどいない。)仕事関係はもちろん、近所づきあいでも、高校・大学生やシニアといった年齢層が、何をやっているのだか、何に興味を持っているのだか、目にすることはほとんどない。車で移動する点と線の世界だから、ショッピングモールなど人が集まるところに行っても(だいたいめったに行かないが)、この二つの層のどちらかしかいないようなところばかり。ネット上でも、私が徘徊するサイトやブログの筆者で、Sidekickを使っているようなタイプの人はいない。せいぜい、そこからさらに先の、二次情報としてしか、聞こえてこない。

夏に日本に行ったときに、その違いを痛感した。地元の町でも都会に出ても、いろいろな年齢層の人たちが大量に歩いている。店や駅で、いろんなことをしている。携帯で若い人やサラリーマンが何をしているのか、しばらく電車に乗ったり歩いたりしさえすれば、だいたい感じがわかる。道路も、大小の車と自転車とバイクと人と、いろんなものが混流状態で流れている。「あぁ、有機的だな〜」「うーむ、各種パケットが混流するネットみたいだな〜(職業病)」などと、改めて思った。

アメリカは、昔の人種差別的な「セグリゲーション」ではないが、不動産の値段や働き口がどこにあるかといった点や、大学は大学町で独立しているとか、いろいろな理由で同種の人たちが集まって、それぞれに隔絶された生活を送るようになってしまっている。

だから、「アメリカの若い人の間で、最近何がはやっているの?」という問いに対して、一次情報では答えられないのだ。そして、日本では若い人の間での流行が、比較的早い速度で他の層にも広まるのに対し、アメリカではそうでもないのだろう。

こうした「隔絶感」は、年齢層だけでなく、たとえば西海岸と東海岸と真ん中へんの違いや、業界ごとの感覚の違いにも存在する。

ここで話が出ている「スマートフォン」に関していえば、業界トップの端末は「ブラックベリー」、第二位は「パーム・トレオ」である。これはSidekickと違って、主に企業やプロフェッショナルが使う業務用である。で、ニューヨークを中心とする東海岸ブラックベリー、わがシリコンバレー周辺を中心とする西海岸ではパームが優勢だと私は思っている。(ちゃんとしたデータはないけれど、こうした層の人々は一次情報として見かけるので、その感覚で言っている。)シリコンバレーに住んでいる人が、ここで見聞きした感覚で「アメリカ」の状況を判断すると、必ずしも全体を正しく把握したことにはならない。

数年前、ブラックベリーがボチボチ売れ出したころ(この端末自体は、もう20年前から存在する)、ある日本のテレコム業界の方に、「今、アメリカではみーんなブラックベリーってのを持っているんでしょ。すごい流行っている、って聞いたけど。」と言われて、返答に困ったことがある。その当時、ブラックベリーの累積加入者数はせいぜい20万人程度で、お世辞にも「みーんな持ってる」とは言いかねる。でも、その話の主の上司の方が、どうやら、アメリカの携帯関係の展示会に来られて、来場者のかなりの比率の人々がブラックベリーを使っているのを見て、そのように思われたようなのだ。そりゃ、携帯業界の人は持ってるだろうけど・・・

ことほどさように、アメリカの全体状況というのは、把握しにくいのだ。

で、Sidekickだが、一応補足しておくと、シャープが製造しているが、もともとのクリエーターは、Dangerというパロアルトのベンチャー企業で、2001年にHiptopという名称で端末を売り出した。端末を作って売っているだけでなく、普通のスマートフォンなら、データ(アドレス帳、カレンダーなど)は端末とそれと同期するパソコンの中に存在するのだが、Dangerでは、ネットワーク・ベースでこれらのデータを保存している。つまり、Danger社のサーバーにデータが置いてある。(ブラックベリーもサーバー・ベースだが、企業にまるごとサーバーを売る。これに対し、Dangerは各加入者のデータをホストする。)最初からネット指向というわけだ。端末自体もなかなかよくできている。

アメリカでは、このSidekickを採用している携帯電話会社は業界4位のTモービルだけで、大手のベライゾンやシンギュラーにはまだ食い込んでいない。おそらくは主にその理由で、Sidekickは、普及台数からいくと、上位2端末(ブラックベリーとトレオ)に比べて、おそらく一桁以上は少ないと思われる。だから、実際に目にする機会はなかなかないワケだ。(Dangerは未公開企業のため、Sidekickの販売数を発表していない。ブラックベリーの昨年度年間出荷数は世界で400万台、トレオは230万台。世界というのは実質的には北米と欧州のこと。)

だからといって、上記松村さんの見聞きされたことが、違うというわけではない。おそらく、私の見えないところにいる若年層で、そういう文化がブレイクする前段階の温度まで上がってきているのだろう。そして、松村さんのおっしゃる、アメリカのケータイ・ネットの世界は、パソコンのネットと連動して初めて機能する、というのも賛成。(大昔、トレオの前身、Visorが発表されたときにそういう記事を雑誌に書いたけれど、その頃からずっとそうなのだ。)ただ、主にキャリア側の意向で、Sidekick的な使い方のできる端末が他にはなかなかなく、そしてそれはマイナーなTモービルしかやっていない、というところが問題なのだ。

それにしても、自分の見えている世界がすべてではない、それだけで業界をわかっているつもりになってはいけない、と改めて自戒した。