通信屋の現実雑感

このエントリーは別に結論も主張もない発散したエントリー、とあらかじめ言っておきます。

バルセロナのMWCは楽しかった。通信業界プロフェッショナルとしては、欧州や米国の仲間とこういう他の人には興味もないような話を口角泡を飛ばして議論できる場は本当にしびれる。

ちょっとした小学校の講堂ぐらいの広さはあろうという広いプレスルームは、ぎっしりと並んだ机に人がいっぱいで、何十分も待たないと席があかなかった。アメリカのイベントで、こんなにプレスの人の密度が濃いイベントは見たことがない。というか、バルセロナでは各所でネットがパンクしており、ここで張り付いておかないと、ネットが使えないという事情もあるのだが。

それが、最終日はプレスルームもがらがら。その日はキーノートもなく、それでも時間ぎりぎりまでミーティングがはいっていた私は、最後の最後まで駆けまわり、プレスルームでぎりぎりまで動画ファイルのアップロードをやって、まだ終わらなかったけどもう閉めると言われ、ちょっと寂しいな、と思いつつ、雨の中、荷物をずるずる引きずって出口に向かう。

そしたら、外がやけに賑やかだ。声を合わせて何か言っている。ブブゼラや鍋のフタを合わせて叩いているような音も聞こえる。展示会の終わりのセレブレーションでもやってるのか?バルセロナの人は親切だなぁ、展示会の人々をこうやって送り出してくれるのか、と思いきや。

なんと、通信事業者の組合がデモをやっているのであった。スペインの旧国営電話会社テレフォニカが運営する、Movistarという携帯電話ブランドがあるが、その会社が従業員を2人不当解雇したのに抗議している、ということらしい。展示会場前の広場に、ざっと2-300人ほどはいただろうか。

通信業界プロフェッショナルたちは一気に現実の世界に引き戻される。ああ、これが現実。

こーいっちゃなんだが、グーグルやフェースブックの連中は、こういう世界と付き合わなくていい。アップルやその他製造業は、中国みたいな組合のない国に工場を移せばよい。でも、通信事業者はこの土地でこの人々と一緒にやっていくしかない。鉄道などもそうだが、サービス業というのは究極の「オフショア不能」な世界。(いや、もちろんそれぞれにいろいろ、違う種類の苦労はあるのだけどね。彼らに苦労がない、とは決して言わないけどね。)

グーグルが無線周波数オークションに参加したとき、キャリア業界では、「すわ、グーグルが参入か」と色めき立ったけれど、心配する必要はなかった。グーグルが組合をマネージできるはずがないし、また無理にやったらグーグルの良さがなくなってしまう。知的労働者だけの密度の高い労働とそのマネージメント手法は、現場を抱える業種とは全く異なる。

組合があるおかげで、いろいろとバランスがとれる。それはそうだが、キャリアの経営者と、考え方の異なる組合の人々との共存はそれなりに苦労が伴う。欧州や米国では日本よりも考え方の違いは大きいし、組合のやり方もまた強烈だったりする。それはまた、昔、大企業の労働者扱いが強烈だったことの裏返し、でもあるのだが。

作業ヘルメットをかぶり、鉄塔に登ったりマンホールにもぐったりしてネットワークを守る現場の方々に本日も感謝しつつ、シリコンバレー的な上澄みの世界から通信屋という現実に連れ戻された。良くも悪くもない。ああ、そうだ、これが現実だ、と思っただけ。