CMに富が集中する、日本のメディアのエコシステム

昨日の続きで、ちょうど、映像コンテンツ制作話を書こうかと思っていたところで、このようなエントリーを読んだ。

http://d.hatena.ne.jp/kagami/20071016#p3

日本では、俳優は「テレビドラマで顔を売って、CM出演で儲ける」仕組みになっていると思っていた。アメリカは、俳優組合の仕組みのせいかどうか知らないが、映画俳優・テレビ俳優・CM俳優は比較的はっきりと分離していて、階層的にはこの順番のカーストになっている。これに対し、日本では、一人の俳優がどれにも出るが、映画やドラマでは儲からない。一方、日本のCMはなんせ儲かるから、アメリカではCMなぞに絶対出ないトップ級のハリウッド俳優も日本ではCMに出る・・・

そう思っていたら、俳優だけでなく、映像制作会社もそうだ、という話を当の制作会社の人から先日聞いて、「ふぅむ・・・」と考え込んでいたところだった。CMが一番ふんだんに制作費をかける、テレビ番組そのものは作ってもあまり儲からない、のだそうだ。CMに富が集中している、という構造がどうもあるらしい。

昨日も引用させていただいた、こちらのエントリーにある「アニメ制作のお金の流れ図」にあるように、テレビにおいては、スポンサーから出るお金が一番上流にあり、そこから広告会社→CM制作・番組制作→芸能プロダクション・制作会社・・・と流れていくのだから、食物連鎖の一番上に位置する広告会社およびCMにお金が一番流れる、というのも、ある程度仕方ないのか、とも思うが、さすがにどうも「尻尾が犬を振っている」ような、アンバランスな感じがしてしまう。

そして日本の場合は、新聞もテレビと資本でつながっているし、また大作映画も最近はテレビ会社と広告会社が出資している。主要な映像・ニュースメディアが、CMを頂点としたエコシステムにすべて従属する構造になっているわけだ。だから、実際に番組や映画のコンテンツを作る人はこの流れのはるか下流に位置することになり、分け前はわずかしかもらえない。もともと、アメリカに比べて映像ソフト市場も広告市場も小さい日本では、効率的に資本を蓄積するためには、集中も仕方ないのかな、と思っていたのだが、その弊害もいろいろ出ているように思う。

アメリカの場合、上記のエントリーにあるように、「良心」でもって「メディアの暴走」の弊害を止めているというより、「マスメディアの集中排除」の種々の法律や仕組みによって、細分化され、メディアの担い手が分散されているのではないかと思っている。ニューヨークタイムズやウォールストリート・ジャーナルはCBSNBCとは別系列になっている。ケーブルテレビでは、インフラを提供するコムキャストやタイムワーナーなどのケーブル会社と、番組を作るバイアコムやディズニーなどのコンテンツ会社は、別になっている。

さらに、テレビ局と広告会社が集中するニューヨークとははるか大陸を隔てた、ハリウッドという別の権力中枢も存在する。ハリウッドは、作った映画をチケットやDVDの形で、広告を経ずに直接ユーザーに販売するので、ニューヨーク組に従属することはない。ニューヨークのエコシステムとは独立した(ディズニーがABCを傘下に持つ、などの関係はあるが)映像ソフト産業を形成しており、ユダヤ系が権力を握り、ニューヨークとは異なる政治行動をとる。作って売るだけでなく、映画制作のための資金調達は「投資」市場としても発達しており、ハリウッドは一種の「ミニ・ウォールストリート」であるとも言える。シリコンバレーが、ベンチャーキャピタルという独立した資本市場を持つのと同じように、ハリウッドも独自の資本市場を持った、独立のエコシステムを形成している。

アメリカでは、こうして映像メディアが分散しているために、「暴走」すれば他のメディアがチェックする。多数のプレイヤーの駆け引きの中で、収入源の多様化や「ネット配信」を戦略にすえようという人も出て来る。「中間搾取」が比較的少ない、ハリウッドを中心とした「直接販売コンテンツ」の市場が発達しているので、そこでは大きく儲かれば制作者にも分け前は大きい。

これに対し、日本では、比較的少ない数の地上波テレビに大量の視聴者を集中し、その限られたCM枠を高値で売って高額なCMを流す、というビジネスモデルを頂点として、映画やニュースも含めたあらゆる映像ソフト産業ががそれに依存している。このため、ネット配信やネット広告による視聴者の分散は、このエコシステムを破壊するものと見なされる。たとえ「著作権」や「著作隣接権」に関わる法律を整備しても、このエコシステムに多くの利害関係者が依存する限り、ネット映像は日本では発達しないのではないか、と思っている。また、なんらかの「直接販売」の仕組みがもっと発達しないと、コンテンツ制作者に十分な儲けがまわらない。もうちょっとニュースメディアが分散しないと、テレビの権力濫用も止まらない、などなど・・・

と、3つの話がごっちゃになって恐縮。

とにかく、このブロードバンドのご時世、日本で問題なのは「電話会社がブロードバンドを独占して、他の人に意地悪する」ことよりも、「メディアと広告の過剰集中」のほうが、もっと問題が多いのじゃないか、と思ったりしている。