「コンプガチャ問題」に見る新興勢力の危機管理と矜持

今週は出張していたので、例のソーシャルゲームおよびコンプガチャに関する件はROMしていただけだったが、遅ればせながら私の考えを一応まとめておきたい。

ソーシャルゲーム各社を叩く論調が多いが、ベンチャーの芽を次々と摘み取る役所への不満の話なども聞こえてくる。

私個人としては、グリーやDeNAを「人格攻撃」ならぬ「社格攻撃」をする気はない。せっかくベンチャーからここまで頑張ってきたのだし、世界で戦おうとやり始めているところで、ここで踏ん張ってほしいと思っている。遅きに失したが、それでもbetter late than neverで、かろうじて事前に自主規制したことはよかったと思う。

ベンチャーが出発するときには、既存のシステムに挑戦するがために、法律的にはグレーだったり網の目だったりするところを通るのもある程度仕方ない。グーグルだってフェースブックだって、今でもプライバシー問題などで、年がら年中戦っている。私が昔いたベンチャーも、結局潰れてしまったが、まーいろいろあったので、今でも外部の人は悪名の部分しか覚えていないだろう。

そして、そういう新興勢力をけしからんから潰そうという人たちがたくさんいるのは所与である。過去のリクルートライブドアの件を見てもわかる。「だって、役所がー」と泣き言を言っても始まらない。過去から教訓を学ばなければいけない。

そして、一方では儲けなければいけない、という点もこれまた仕方ない。

何が正しいとか正義とかは相対的なものだ。線の引き方は人によりけりだし、なんとでも言える。ただ、この一連の事件を通して、ベンチャーが陥りがちな穴と、その危機管理対策というのも見える。

ぶっちゃけた言い方をすれば、そういった敵に負けないぐらいの「味方」勢力を作っておけばよい。やり方はいろいろあるが、王道は「お客さん」を味方につけることで、このお客さんがメインストリームに十分な数存在し、その人達が「このプロダクトがなくなったら困る」と心から支持してくれるようになれば、メディアもサポートするようになり、そう簡単には潰されなくなる。

以前のエントリーで、フェースブックに関する本の書評を書いたが、その中でザッカーバーグマイスペースを評して言った引用がある。

「そこがシリコンバレーの会社とロサンゼルスの会社の違いだ。われわれはずっと長く使われるサービスをつくる。この(マイスペースの)連中は何ひとつわかっちゃいない」
理念がなければ成功できない - 「フェースブック 若き天才の野望」 - Tech Mom from Silicon Valley

マイスペースは、早くから広告による換金化を目指して、この頃にはかなり「ユーザー優先よりも金儲け指向」に陥っていた。フェースブックだって、いろいろ叩かれる材料もありながら、一方では「アラブの春フェースブックが起こした」と言われるほど、(少なくともアメリカの世論やメディアから見て)社会的役割を果たしている。「高値どまりしているものをもっと安く広い範囲の人々に」だったり、「言論の透明化」だったりなど、多くのメインストリームの人の共感を得られる理念を新興勢力側が提供することができれば、その見えない力を援軍として戦うことができる。

日本のソーシャルゲーム各社が、メディアで問題が出だした頃から早めに自主規制する一方、「自分たちはこれだけ世の中の役に立っている」ということを胸を張って言えたらよかったのに、と思う。しかし、「法律に違反してない」だけでは言い訳に聞こえるし、たとえ議論でねじ伏せても、それを聞いている人たちが感情面でも納得しなければ味方にはなってくれない。現在のお客さんはどうやら、いわゆる「メインストリーム」ではなく、かなり大きいながら「ニッチ」な存在。結局は役所や古いマスコミだけでなく、ネット世論でも支持されず、援軍はどこからも来なかった。「味方」のアセスメントを見誤ったといえるだろう。

「役所やマスコミの圧力に対する危機管理」というと功利的に聞こえるが、みんなはバカじゃないので付け焼刃ではダメ。儲かったお金を震災対策に寄付するとかいう一時的な話ではなく、本業における自分たちの強みを活かして、どうやって社会に役立てていくか、ということを本気でやらないと、短期的には儲かるかもしれないが、長期的に生き残ることは難しい。

シリコンバレーはそういう文化があり、日本ではそんなキレイゴトをバカにする傾向がある。でも、日本でもホンダやソニーソフトバンクは、それなりのキレイゴトを本気で心に持ってやってきている(かつ、うまくそれを外に対してもアピールしている)と思う。薬品ネット販売の件も、必ずしも直接のお客さんではないメインストリームの人々が、「理念」の部分で新興勢力の味方になった例だと思う。

日本のモバイルゲームのリーダー各社は、世界の同業者からお手本として見られる存在でもあり、もうベンチャーではなく立派な大企業である。日本のモバイル通信業界の将来のためにも、矜持をもって、長期的な発展のできる方向に行ってほしいと思う。