大阪維新の会 トンデモ条例案の黒幕

今朝から、わがツイッターのタイムラインがこの条例案なるものへのすごい批判の嵐でいっぱいになっている。大阪維新の会自体についてはあまり知見がなく、政治的な評価などの意見は私は全くもっていないが、この条例案祭りが、ツイッター以外の場所にあまり出ていないようなので、少々ツイッターを深読みしてみた。

条例案は下記参照。あまり長くないので、ご興味のある方はまずは見てほしい。「これって虚構新聞でしょ」というツイートが的を射ている。本気でこんなことを公の場で言う人がいるのかと驚いた。ツッコミどころが多すぎる。
大阪市・家庭教育支援条例 (案) ――― 全条文 (前文、1〜23条)

特に私の周囲で批判が多いのが、第4章第15条。

乳幼児期の愛着形成の不足が軽度発達障害またはそれに似た症状を誘発する大きな要因であると指摘され、また、それが虐待、非行、不登校、引きこもり等に深く関与していることに鑑み、その予防・防止をはかる

いまどき、こんな話を信じる人がいるのだろうか?確かに、極端な虐待などの環境で育った子供は発達障害のような行動をするかもしれないし、また「普通の子とのボーダー」のような軽度発達障害の子へのケアが現在の日本では抜け落ちていて、親が過剰ストレスから育児放棄のような状態になったり、きちんとしたケアがされなかったために二次障害として引きこもりなどになったり、といったケースはたぶん多くあるのだろうと思う。それにしても、この言い方は「親の育て方が悪いから発達障害になる」と言わんばかりで、「予防」ができるとはこれいかに??

さらに18条がこれだ。

わが国の伝統的子育てによって発達障害は予防、防止できるものであり、こうした子育ての知恵を学習する機会を親およびこれから親になる人に提供する

「ゲイは後天的で治せる」というアメリカの超保守共和党かよ、というツイートがこれまた当たっている。

それにしても、あまりに無茶苦茶なので、逆に一体どういう人が何の意図でこんないかにも批判を浴びそうなものを持ちだしてきたのか、もしかして「炎上マーケティング」の一種なのでは?などと疑ってしまう。

この条例の背景などに関する報道はあまり見当たらないのだが、このトゥギャッターを読んでいくうちに、少々気になる手がかりが見つかった。
大阪維新の会: “家庭教育支援条例案”が、驚愕以前にツッコミどころ満載…な件 - Togetter

私はたまたま、発達障害には個人的にも関わりが深く、まずこれに反応したのだが、これだけでなく条例全体で使われている用語やトーンが、トゥギャッターの中で指摘されている「高橋史朗」なる人のトーンに確かに共通する。「発達障害は予防、改善できる」とか、「伝統的子育て」とか、まさにぴったり。

高橋史朗 - Wikipedia
http://www.amazon.co.jp/%E8%84%B3%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%81%8B%E3%82%89%E8%A6%8B%E3%81%9F%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E4%BC%9D%E7%B5%B1%E7%9A%84%E5%AD%90%E8%82%B2%E3%81%A6%E2%80%95%E7%99%BA%E9%81%94%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%81%AF%E4%BA%88%E9%98%B2%E3%80%81%E6%94%B9%E5%96%84%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B-%E7%94%9F%E6%B6%AF%E5%AD%A6%E7%BF%92%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88-%E9%AB%98%E6%A9%8B-%E5%8F%B2%E6%9C%97/dp/4896391942

さらに、第5章第21条のこの用語。

親としての学び、親になるための学びを支援、指導する「親学アドバイザー」など、民間有資格者等の育成を支援する

この「親学アドバイザー」というのは、この高橋史朗氏のやっている「親学推進協会」というところで出している資格だそうで、講義料や資格取得にお金を払うという商売。
親学アドバイザー認定講座:親学推進協会-親が変われば、子どもも変わる-

さらに、「大阪市」の話のはずなのに、序文には下記のように「本県」とあるため、どこかのコピペだろうというのがツイッター論壇のもっぱらの推測だが、確かに高橋史朗氏は前埼玉県教育委員会委員長であり、埼玉県と関わりが深いようだ。

 このような時代背景にあって、本県の未来を託す子供たちの健やかな成長のために、私たち親自身の成長を期して、本条例を定めるものである。

そして、これもトゥギャッター情報からすると、高橋史朗氏が大阪維新の会で講演をやったこともあるらしい。

以上、少し調べただけなのでもちろんこれが真実とは言い切れないが、ツイッター論壇から見たトンデモ条例案の黒幕推理である。それにしても、だからといって何がどうなって、こんな見るからに炎上ネタが、これだけ今微妙な立ち位置にある維新の会の発言に登場したのか、私には全く理解できない。どなたか、解説してほしい。

一応付け加えておくと、日本でも発達障害の支援体制はだいぶ整ってきているが、「医療」「療育」の範囲に届かない、軽度・ボーダーラインのケースについてはまだまだ手薄で、教育現場も親も、個人が背負いこんで頑張るしかない状況であると聞いている。上記に書いたように、それが原因で親や教師が燃え尽きたり、本人がいじめにあったり自信をなくして引きこもったり荒れたりすることもある。アメリカの中でも対策が手厚い学区で、しっかりサポートしてもらっている私ですら、しばしば燃え尽きそうになるので、支援も周囲の理解も得られない親御さんがどれほど大変な思いをしているか、想像を絶する。だから、「軽度」に対する支援体制の強化、という言葉ヅラだけとればどんどんやってもらいたいと思う。ただ、この条例の中身では困る。

もう一つ、ご参考に、この条例案に対する反論ブログを掲げておく。

大阪市「育て方が悪いから発達障害になる」条例案について - 泣きやむまで 泣くといい

<追記1>
コメント欄にいただいたように、安倍元総理などもからんでいるとのことです。
http://hakubun.jp/2012/04/%E3%80%8C%E8%A6%AA%E5%AD%A6%E3%80%8D%E6%8E%A8%E9%80%B2%E8%AD%B0%E5%93%A1%E9%80%A3%E7%9B%9F%E3%81%AE%E8%A8%AD%E7%AB%8B%E7%B7%8F%E4%BC%9A/

<追記2>
橋下徹氏は、自身で弁明ツイートを出しています。
Twitter. It's what's happening.
http://www.47news.jp/CN/201205/CN2012050401001415.html

<追記3>
「親学」推進派に関する追加情報を盛り込んだブログです。これで、私にはこの件の構造が理解できました。「利益誘導」も絡むかもしれないけれど、結局アメリカの「ティーパーティー」さんたちと同じような思考回路の有力者+有権者がかなり存在する、ということらしいです。このブログのコメント欄にもその片鱗が見られますね・・
「俺の邪悪なメモ」跡地

あと、こちらもご参照。
大阪維新の会のエセ科学的「家庭教育支援条例(案)」逐条批判 (1/3)

<追記4>
参照ループになってしまいますが、やまもといちろうどののエントリーもご参考に。
大阪維新の会の新条例が面白すぎて笑える: やまもといちろうBLOG(ブログ)

<追記5>
もうさすがにこの記事を読みに来る人はあまりいないと思いますが、自分のメモとしてさらに関連リンクを追加しておきます。「大批判を浴びている発達障害の部分を削除するという『譲歩』をすると、なんとなく受け入れられてしまう、それをあらかじめ狙って壮大なトンデモ案をわざと最初に持ってきた、という戦術では」という指摘は面白いです。
カイパパ通信blog☆自閉症スペクタクル : 大阪維新の会「家庭教育支援条例(案)」に反対します
http://d.hatena.ne.jp/bem21st/20120505/p1