日本の携帯端末メーカーは、アメリカに参入できるニッチを一つ逃したような気がする

先日、ヤボ用があって息子と一緒に近所のベライゾンの店に行ってきた。ベライゾンは最近iPhoneも出したし、モトローラサムスンLTE対応端末をがんがん出して相変わらずの横綱相撲をやっているわけなのだが、実は店にはいって一番目立つところに、意外な端末が陳列されていた。それを見て、少々深読みをしてしまった。

「意外な端末」とは、HTC Rhythmという。中身は、どってことのないただの3G Android端末。違いといえば、躯体が紫色であることだけといってよい。まぁ、ちょっと薄型になっているし、つや消しのメタリックな紫の躯体デザインはけっこう私は好きで、ずらりと並んだ端末の中でちょっと目を惹かれることは間違いない。

つまり要するに、女性向けのデザインなのである。クリスマス商戦に突入し、奥さんやお母さん向けのギフトとしての端末が売れるから、そこにこれを据えたのだろうと思う。そしてこれは、アメリカの携帯業界の中で私にとっての最大の謎、「なぜこれほど、女性市場が無視され続けているのか?」という点に関係している。

日本のケータイは、女性のほうがメインターゲットといってよいほどで、端末も綺麗な色で女性にアピールする洗練されたデザインのものばかりが並ぶ。その感覚からすると信じられないと思うが、アメリカの携帯端末は未だに黒ばかりである。スマホ主流化以来、ますます機能優先の真っ黒でそっけないものばかりになってしまった。一時、ブラックベリーが「サッカー・マム」向けの赤や紫の端末を出してそこそこ人気があったのだが、RIMの凋落とともに勢いを失ってしまった。

今、米国市場に出ている主力スマホ端末のうち、「女性向けバージョン」と言えるのは、「iPhoneの白」だけである。だから、あれほど「白が出ない」ことが問題になったのだ。

それなら、その空白を狙って他のメーカーが女性向けデザインのスマホを出せばよいのに、どこもやらない。

その点での最大のアホ事件は、マイクロソフトが大失敗した「Kin」だ。当事者は深い考えがあって出したのかもしれないが、ティーンの子供を持つ母親から見れば、一体何を考えてあんな真っ黒なハコを出したのか、全く理解できない。Kinは「メッセージフォン」である。メッセージフォンとは、SMS(テキストメッセージ)をたくさん打つための端末であり、その最大のユーザーは、女子中高生である。この点は洋の東西を問わない。しかも、Kinはティーン女子の間で一世を風靡したSidekickの後継機種だ。なので、私だったら、「白」とか「紫」とか「緑」とか、女性向けの透明感のある色のデザインをメインカラーにしたと思う。黒にしたのは、おそらくはコストが安かったからだろうが、なんだかなぁ、ギャルが欲しがるとは思えないし、オバサンの私だってあれはどうかと思う、全体的に整合性がとれてない、これでDanger(Sidekickのメーカーでマイクロソフトに買収されていた)の残党もいなくなるなぁ、と感じたものだ。その後、あっという間に販売中止となった。

その後も、結局メッセージフォンで女子にアピールするデザインのものは出てこない。スマホが「マス普及」の時代にはいっても、iPhoneの白しかない。なので、この「女子向けデザインのメッセージフォンや普及型スマホ」というのは、アメリカのキャリアの「盲点」として、女性向けデザインに経験が深い日本メーカーが入り込めるニッチだとずっと思ってきた。(Kinは、Sidekick時代からの縁でシャープが製造していたが、デザインをシャープが自分できめられる状況ではなかった。)

メーカーは提案していたが、アメリカのキャリアが女性向けモデルという考えのない古びたオッサンばかりで聞く耳を持たなかったのかもしれないし、実際にはどういうやり取りが水面下であったのかは知らない。とにかく、日本のような、女性向けの綺麗な端末が、これだけ待ってもアメリカには出てこない、つまんない・・

・・だったのだが、HTCが先行してしまった。日本メーカーで、果たしてこれに続くところがあるのだろうか?もし続かないなら、またチャンスを逃したような気がする。HTCの紫色の端末を見て、「これってmommy's phoneなんだよね?」と息子やベライゾンの店員とバカ話をしながら、そんなことをついつい思ってしまったのだった。