マネされるニッチを狙え

さて、そろそろ「高岡某vs.フジテレビ」の騒ぎも鎮静してきたようなので、落ち着いて経営戦略としての「スーパーニッチの考察」を粛々と続けたいと思う。

前記事→
韓流に見るスーパーニッチ戦略の落とし穴 - Tech Mom from Silicon Valley
「Big in Japan」と「スーパーニッチ」 - Tech Mom from Silicon Valley

コンテンツの世界で、最もわかりやすいスーパーニッチは「アダルト」だろう。手っ取り早く儲かるために、新しい配信メディアが立ち上がる場合の先行コンテンツとなりやすく、しばしば「必要悪」のように扱われる。

例えば、その昔NTTが「ダイヤルQ2」を始めたときがそうだった。現在の種々の「オンライン・コンテンツ商売」の先駆けになる可能性をもった仕組みだったが、このスーパーニッチ依存のために悪いイメージがべったりと貼りついてしまい、メインストリームのユーザーから忌避されるようになり、失敗してしまった。「アダルト嗜好」以外のユーザーを疎外してしまったわけだ。

ドコモがiモードを立ち上げた際には、この間違いを繰り返さないようにものすごく気を使った。アダルト・コンテンツを排除し、銀行に頼んで「モバイルバンキング」をやってもらったりして、「信頼度の高いコンテンツ・プロバイダーが提供する、メインストリームのサービス」というポジショニングでスタートした。これが、その後iモードが「プラットフォーム」として大きく成長することにつながった。

その昔の「物理的」なビデオ・レンタル・ショップでも、店の裏の暗い一角には子供の入れないエリアがあるのが普通で、それは「儲かるんだから仕方ないよね、商売でやってるんだし」と見られていた。しかし、例えば現在アメリカでビデオ・コンテンツ配信の「大本流」となりつつあるネットフリックスでは、アダルトは全く扱っておらず、おかげで現在ネットフリックスは「メインストリーム」に育つことができた。

しかし、ネットフリックスはベンチャーから始まったので、最初から「メインストリーム」対象だったワケではない。「ビデオをレンタルする頻度が高く(=返却遅れの延滞料にしばしば悩まされる)、ネットをよく使う、映画好き(または小さい子供のいる家庭)の人々」という別のくくりの「ニッチ」が対象だった。こういう人々は、「アダルト」と比べると、いろいろとウルサイことを言うし、お金にもケチケチしていているので、儲けはあまり手っ取り早くない。(そういう意味で、私が当初設定した「手っ取り早くようけ儲かる」というスーパーニッチの定義には当てはまらない。世間一般でどう定義されているかはよくわからない・・)

しかしこのニッチは、社会階層的には「中の上」以上の家庭ということになる。このため、最初はニッチでも、その周辺の人々が抵抗感なく「マネ」しやすいので広がりやすく、その後メインストリームに育つことができる。

FacebookMySpaceの違いも、同じ意味で興味深い。Facebookは「上位大学の学生」というニッチから始まった。しばしば妬みに対象にもなりがちだが、実はみんなあやかりたいと密かに思っている対象なので、マネされやすかった。これに対し、もともと「大衆的」であったMySpaceは、Facebookにやられ始めたころからますます「手っ取り早く儲かるスーパーニッチ」の袋小路にどんどんツッコんでいき、「音楽志向のSNS」とは言いながら、実はすっかり「ヒップホップ」の世界になってしまったため、メインストリームの人々が逃げてしまった。

iモードや、アメリカのテキスト・メッセージングは、「ティーンの女の子」というニッチから徐々に広がることができた。一歩誤ると、これも「スーパーニッチの罠」に陥りがちのように思うが、これはうまくいった例だ。

どれが「抵抗感なくマネされやすいニッチか」「メインストリームの人々を疎外しないニッチか」という見極めは、そう簡単ではないが重要だ。何度も言うように、最初から最後まで、スーパーニッチ・プレイヤーとして地歩を固めてしっかり儲ける、という戦略もアリだ。しかし、大きく育てたいコンテンツ商売を始める場合には、この見極めが大事で、さらには最初のうちは「手っ取り早く儲からないけれど、じっとガマンして育てる」覚悟もいる。

どちらを選ぶかは、あなた次第、である。