NetflixとBlockbusterの間の「超えられない壁」

ご存知のように、アメリカのレンタルビデオ最大手ブロックバスターが倒産した。

【ブロックバスター】、とうとう倒産!ストリーミング視聴の増加で再建も暗〜い見通し?

そんなにたくさん記事を読んだわけではないが、ネットフリックスとブロックバスターを比較した下記の記事はよくまとまっていると思った。

AOL Portfolios shutdown

ネットのストリーミングをワルモノにするのは簡単なのだが、この記事にあるように、ネットフリックスも少し前まで、「ストリーミングが主流になったらおしまい、長続きはしない」ともっぱら言われていた。それが今では株価急上昇中。私もユーザーとして頻繁に利用していることもあり、この一連の騒ぎの中では、だいぶ前にもう終わっていたブロックバスターの末路よりも、ネットフリックスの「粘り」に感服している。

何がすごいかというと、「地味で基礎的な部分へのこだわり」。ウェブサイトの作り方など、ある意味ではどうにでもできるのだが、自分の力が及びにくい割に、今でも大半の部分を占める「郵便での配送」がなにしろ早い。翌日にはほぼ必ず到着する。ユーザーには「前回送り返したDVDはいつ発送しましたか?」といったアンケートが頻繁に来るなど、物理的なロジスティクスに気を使っている様子がわかる。しかも、「バルク郵送料金」は少し前に値上げされ、「これでネットフリックスもダメになるか?」などと言われたのを乗り切った。

ストリーミング配信でも、上記の郵便配送と同じように「配信品質」へのアンケートが頻繁に来る。iPad向けのストリーミング配信では、「通信帯域の消費を少なく抑える技術」をAT&Tと協力して採用しているとの話も聞いたことがあり、具体的にどんなものかはわからないが、こうした「配送・配信」部分への同社の気の使い方から考えると、ありそうな話だな・・と思っている。(詳細ご存知の方があれば、是非教えてください。)

「マス市場全体」を相手にしていたブロックバスターの顧客は、「月額料金を払う気のある映画好き客=ネットフリックス」と「週末、暇つぶしにテキトーに借りるカジュアル客=レッドボックス(スーパーに置く自動レンタル機)」に上下分離した。品揃えという点では、ネットフリックスはブロックバスターより圧倒的に多い「ロングテール」で、レッドボックスは圧倒的に少ない「大衆向け新作オンリー」。真ん中は落ち込んでしまったわけだ。

という話もあるが、結局のところ、上の記事にあるようにブロックバスターは「サムナー・レッドストーンからカール・アイカーンに経営権が移る」という、バブルの生き残り妖怪爺同士が、不動産取引みたいな、一昔前の感覚で売ったり買ったりしている、というところが古くてどうしようもない。最新の技術を使って本来事業そのものをイノベートする、ということを、こういう方々が第一に考えるとはちょっと思えない。ブロックバスターも、延滞料金対策や郵便配送もやったが、すべて後手後手にまわった。

確かに、旬を過ぎた事業は、安定したテナント料をあげればそれでよい「不動産事業」と見て、それに徹するやり方もあるのだが、ブロックバスターには不幸なことに、イノベーターが競争相手として出現してしまった。ネット配信が原因、というより、このあたりの経営の姿勢の違いが、ネットフリックスとブロックバスターの間の「超えられない壁」だったんじゃないか、と私には思える。