世界の4G周波数事情と周波数オークションについて

これまでこのブログでも、何度か700MHz周波数について書いてきているが、実のところ欧州の事情を私もあまりよく知らなかったので、ちょっと調べてみた。せっかくみんなで苦労して3Gの方式と周波数を世界で合わせたのに、なぜ4Gでまたバラバラになってしまうのか、という事情がなんとなくわかってきたので、ざっとまとめてWirelessWire Newsに寄稿した。

GSMでは、無線方式の技術規定だけでなく、使用周波数帯も規定しているが、次世代LTEでは多くの周波数帯が使えるようになっている。それはなぜか、米・欧・日でそれぞれどうなっているか、複雑な過去の経緯をなるべく簡単にしたつもりなので、周波数問題に興味のある方は参照してほしい。わかりやすくするため、細かいところを省いていることはご容赦いただければ幸いである。

http://wirelesswire.jp/Watching_World/201008201500.html

ここにも書いたように、技術的にはデュアルバンドにすれば国際ローミングの問題は解決するが、製造コストという意味で、日本だけが孤立すれば、常に「後回し」になり、またコストが高くなることが問題と思っている。日本のメーカーが現在世界の主導権を握っているならまだよいが(自動車の右ハンドルのように・・)、残念ながらそうではない。スマートフォンがブームになりだしてからもう5年もたつのに、未だに日本メーカーはほとんど対応していない。そしてそのことが、これから先の日本のIT産業の活路となりうる上位レイヤーの「クラウド+モバイル」のチャンスの扉を閉ざしてしまいかねない、ということを懸念している。それで、上記の複雑な経緯と日米欧のユーザーや市場の状況を鑑みて、日本はユーザー状況の似ている米国となるべく歩調をあわせるのがよい、と考えている。

さて、ここには書かなかったが、周波数の割り当てはオークションでやるのがいい、と私は相変わらず思っている。細かい話は下記「アゴラ」の記事を読んでいただくとして、モバイルマルチメディア放送向けの周波数が迷宮入りしそうという話を読んで、ますますその思いを強くしている。

米国周波数オークション戦記
破綻した電監審 – 池田信夫 – アゴラ

今からオークション導入の検討を始めたってもう遅いという見方もある。アゴラに書いたように、90年代の伸び盛りの時期にやれば、先の収益の見込みも立てやすく、新規参入も入れやすかったのに比べ、現在は音声が飽和状態で、この先どんなサービスが出てどれぐらい儲かるかの見込みは立てにくい。成長が鈍り、過剰マージンもかなり吐き出してしまったので、新規参入も難しい。また、オークションではいってくる免許料をなるべく高くしたいという視点に立つと、米国のように参加者も競売対象免許数も非常に多いか、または欧州のように域内各国の主要キャリアが相互参入することで、数は少なくても資金力の拮抗したプレイヤーが複数いることが好ましい。日本の国内キャリアだけでは、免許料が競争不足で安くなったり、資金力の大きいドコモがますます強くなってしまう、という懸念もある。

そんなこんなで、今やったらうまくいかない、という意見もわかるが、上記のモバイル放送の件でもわかるように、利害関係者同士で話しあっても決着がつかず時間ばかり空費する。過去に「美人コンテスト方式」で政治的に割り当てた先が破綻する例も相次いでいる。どんなに総務省官僚が頭がよくても、この先どんなサービスが出るのか儲かるのか、完璧に予言することなどできない。

それならいっそオークションにしてしまえば、「誰も責任をとらなくて済む」のである。市場原理で決まるだけの話。大枚はたいて周波数を買って、儲からないのは自己責任であるが、勝敗は時の運である。オークションは問題の何も無い「ベスト」の解ではないが、現在可能な方法の中で「ベター」なものだと思う。

それに加えて、日本の政府・役所のことだから、今から検討を始めてもどうせ実施されるのは10年後だろう。10年後にはまた状況も変わっているかもしれない。もう遅いのだが、「better late than never」。2年後よりは今のほうがまだマシである。

キャリアにとっては、免許料が高くなるという問題があるのはよく分かるが、これにより免許プロセスがスピードアップし、持っているが使えなくなった周波数を転売するのもやりやすくなり、新しい使い方が出てきたときに機動的に周波数を獲得できるようになるというメリットもある。「放送」との利害調整は相変わらず大変だが、米国で進行中であるような「お金」というシンプルな尺度での調整もやりやすくなる。

「すぐやる」といってもどうせ10年後なのだから、せめて「実施するとしたらこうする」という検討ぐらいは、本当に「すぐ」に始めるべき、と考える。

<参考記事・リンク>

700/900MHz帯周波数再編情報 - 携帯・PHS関連@Wiki - アットウィキ
ブロゴス 海部記事まとめ --- 過去のこのブログエントリーのうち、最近の周波数関連記事はだいたい転載されている
このブログ過去記事 周波数政策を誤れば「棺桶の蓋に釘」となる - Tech Mom from Silicon Valley「電波鎖国」関連記事まとめ - Tech Mom from Silicon Valley