ある潮目。「中国疲れ」と日本の立場。

軍事や政治の面で、あるいは他の産業やアメリカ全体でもそうなのかどうかはわからない。でも、このところ、ITやネットの世界では、日本をめぐる世界の潮目が少し変わってきているような気がしている。ま、あくまでもシリコンバレーから見た話、でしかないけれど。

相変わらず、「ジャパン・パ(pa)ッシング」ではある。日本が「牙城」と思っていたゲーム業界ですら、日本の存在感の低下が著しいそうだ。いろいろな「中の人」から、その話を聞いている。だいぶ前(2006年)にアニメとマンガの話を書いたときだったか、「ゲームは違う」というコメントをいただいたと記憶しているが、ついにゲームまで国内向け優先のパラダイス鎖国化しているという話をあちこちで聞く。子供・ファミリー向けにはWiiとDSが相変わらず強いが、全体としてはXboxiPhoneとオンライン・ゲームとソーシャル・ゲームが勢力を伸ばしつつある中で、日本のゲーム・ソフトは相対的に地位が低下しつつあるように見える。先日、日本の若い方々が来て、こちらのティーンが何のゲームで遊んでいるかを聞いて、あまりに日本と違うので呆然としていた。

日本は、うまいこと製造業ベースの経済を作り上げ、製造業の雇用効果が大きいおかげで雇用が安定し、国内市場が大きいおかげで、部分的にはある程度の参入障壁を作って国内からの雇用流出をある程度回避して(完全ではないがアメリカほどではない)、パラダイス鎖国化することでうまく回ってきた。その昔の「輸出は悪」時代の雰囲気を作ることで、アメリカもそれに手を貸してくれた。そういう時代が終わりつつあるんだろう。

それは変わらないのだけど、ちょっとだけ変わっているのは、だんだんみんな「中国疲れ」してきているのを堂々と発言するようになってきて、相対的にアジアのパートナーとして日本がちょっとだけ見直されているような気がする、という点。

「中国疲れ」現象については、衆目の一致するところだろう。当地ではグーグル対中国の対決あたりから、そんな雰囲気が顕著になってきたと思う。もちろん、今でも中国は「潜在大市場」だし、重要な製造基地だし、無視はできないのだが、かつての「日米貿易摩擦」と同じ現象に加え、特に「IP(知的財産権)」が重要な上位レイヤーのIT分野では、中国と付き合うためのコスト(IPや情報を盗まれたり開示を強要されたりするリスク、中立的な裁判制度の不在、政府の恣意的な影響力など)が大きすぎる、と考える向きも多い。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/4025

その点、中国と比べれば、日本は悪く言えば「安全パイ、言う事きいてくれる相手」、よく言えば「契約や法治の概念が整った先進国で話が通じる相手」だろう。「日米」の比較に中国という第三の軸を導入すると、日米はむしろ似ている、という話は拙著「パラダイス鎖国」にも書いたけれど、アメリカでも同じことを考える人がいるようだ。

たとえば、日本でも話題になった、Salesforce.comのMark BenioffがTechCrunchに寄稿した一文。ここではベニオフは中国については触れていないが、やたら日本を持ち上げている。なぜ、ベニオフがこれを書いたのか、なぜ首相に会いに行ったかなどについて私は知らない。しかし、深読みしようと思えばできる。

Why Japan Matters: iPad Mania, Cloud Computing, And Social Intelligence – TechCrunch
なぜ日本市場が重要か: iPad騒動, クラウドコンピューティング, そしてソーシャルインテリジェンス | TechCrunch Japan

世界の中で一時より存在感の低下したアメリカが、リスクの多い中国とつきあう上で、味方をさがすとしたら、おそらく一番適任なのが日本なのでは・・・あるいは、実は日本のほうが、IP問題の懸念が少なく、リッチなユーザーが多い、より良い市場なのでは・・・(個別の企業に関して、他にも私がこのように感じた例がいくつかあるけれど、申し訳ないがここには書けない。)

モバイルの「ハードウェア」の世界では、欧州が新興国を従えた「旧植民地」構造で、細分化したままの米国を数で圧倒して勝ちを収めた。(このあたりの事情は、WirelessWireの連載コラムを参照)モトローラのインフラ部門をノキアシーメンスが買収することになり、かつてのノーテルのインフラ部門はエリクソンが買収済み、ルーセントアルカテルと合併済みで、通信の屋台骨である携帯通信のインフラ・メーカーは、ついに北米から消滅した。(チップは別の話として・・)

にもかかわらず、モバイルの上位レイヤーのパワーは、シリコンバレーに集中しつつある

IPとクラウドを軸とした、ネットとモバイルの「上位レイヤー」における世界のパワーゲームの中で、日本の企業はどのような立ち位置を取るべきか。「敵失に乗じるだけか」「アメリカの思い通りになるのはイヤよ」などと言っている場合ではなく、製造業にいつまでもこだわっている場合でもなく、この潮目をどううまく利用して、(少なくとも)IT産業においてどのような次世代に向けた戦略をとるのか、考えないといけないように思っている。