カイザーの話、追記

昨日は、私の体験を思わずTwitterでつぶやいたら、日本の現役のお医者様から「詳しく」とご希望をいただいたのでまとめて書いただけなのだが、意外に多くの方に読んでいただいた。ざーっと飛ばし書きしたため、かなり重要な事項を書き忘れたので、ちょっと追記しておく。

カイザーのビジネスモデルの最大の弱点は「スケーラブルでない」という点。大規模な自前の医療設備を持たないといけないので、面的に展開することができない。カリフォルニアにはかなり数は多いが、それでも一番近い拠点が自宅から30分以内ぐらいにないと不安であり、その設備を緻密に張り巡らすのはいくらなんでも無理だ。

似たようなモデルを目指す「ネットワーク参加型」で、個別の医院や病院をロールアップしているケースもあるが、個々の病院の方針などを尊重してルースにやっていては、カイザーほどの徹底したIT化や収益モデルはできないように思う。

この弱点があるため、広い範囲に従業員が散らばっている大企業の「法人契約」を取るのが難しいのではないかと思う。そのため、顧客は「地元密着」ローカルビジネス、私のような自営業者や個人契約に限られているように見える。はっきり言って、カイザーに来ているのはスペイン語系の方など、マイノリティやブルーカラーっぽい人が多い。それで最初のうちはやや不安だった。今でも、難しい病気にかかったらどうだろうか、というのはなんともいえない。

ただ、日常のものもらいや風邪や定期健診に関しては、むしろ利便性のほうが優っているので困っていない。子供が頭を打って怪我をして、MRIをやってもco-payの50ドル均一で済む(普通なら2000ドル以上で、それを保険で払戻してもらうのにえらい苦労したりする)、というのはめちゃめちゃありがたい。そして、だからこそ貧乏人の患者が多いのかもしれないし、だからカイザーを嫌いと思う人もいるだろう。

もう一つの点だが、カイザーは別にIT化のためにこのようなモデルになったのではなく、もともと成り立ちからして「会費制病院」(船員組合の病院が発祥だったと記憶)という形態だったので、IT化のインセンティブが強かった。どこまで行っても、しっぽが犬を振り回すことはできない。IT事業者側がいくら騒いでも、本業のビジネスモデルから発する強い「IT化インセンティブ」がないとコトは進まない。強調したかったのは、この点である。いくら回線の速度を上げても、立派なITシステムを提案しても、肝心の本業がそれを必要としていない人には必要ないのである。

なお、「ウェブ対応はコンピューター・リテラシーの低い人にはかえって面倒?」というコメントをいただいたが、患者とのインターフェースは基本は普通の病院と全く同じ。注意事項はプリントアウトして紙で渡すし、電話でのアポイントもあり、ただウェブを使いたい人にはそのオプションもある、ということである。