ハイチにおける日本の不在について

前のエントリーにも書いたように、アメリカは大幅にハイチに援助をしているが、それだけでなく、ほかの国からの国際救援活動についても、ここ数日、当地では派手に報道されている。米大陸の近隣諸国と、欧州主要国だけでなく、中国と台湾が競争でレスキュー部隊を派遣しているのが、映像や写真でも報道されている。その政治的な意図については、あちこちで書かれているので省略する。

それに比べ、日本は全く米国メディアで言及されていない。日本のメディアでも扱いは小さく、被害についての報道だけで、日本の関与については最近まで報道されていなかった。(ようやく、救援部隊が着いたという報道が出たらしいが)されていなくても、きちんとやることはやってるんだろう、と半ば希望的観測として信じていた。インドネシア津波のときも、9/11のテロのときも、それなりに迅速に対応して人も派遣されていた。だから、たとえ政権党がなんであっても、やるべき部署の人が地味にちゃんとやっているに違いないと思っていた。ただ、国民的な関心は低いだろうから、日本の新聞では大きく扱われないだけだろう、私はたまたま縁があるので、個人的な思い出や通信に関連するニュースなどを、地味にTweetやブログするだけにしておこう、やるべき人はちゃんとやってるだろうから、素人の私がごちゃごちゃ言うこともないだろう、と思っていた。

しかし、どうやらそうでもなかったらしい。一応、下記のブログを見てそう思ったのだが、この記事で私が問題と思ったのは「日本の出足が遅れている」ということが事実であるという可能性が強まったことであり、ほかの報道とも合致している。

そりゃ確かに、空港も港もしっちゃかめっちゃかで、今、人や物資を送ってもすぐには届かない。近隣諸国と比べて遅いのは仕方ないし、政治的に露骨な意図のある中台と比べて、日本ではカリブの重要度が低いのは承知している。これまでさんざんハイチに手垢をつけてきた欧米諸国と違うことも理解している。しかし、「やっぱり政府の対応は遅い」ということはどうやら事実らしい。

ハイチ大地震 日本の救援出遅れの原因はたった一人、それも災害に関しては素人の担当者に決定を迫る外務省のシステムの問題か: 天漢日乗

余談ながら、このブログエントリーをTweetしたらいろいろ突っ込まれたが、個人的にはこの外務省のカリブ担当者には同情してしまう。私は、ホンダ入社直後にカリブの島への輸出をいくつか担当したが、誰も名前も知らなければバイクも年間3台とかしか売れないところばかり。*1ハイチはもうちょっと大きな市場だったので、一年上の女性の先輩が担当していたが、要するにカリブは、入社1・2年目の新入社員が担当するような市場だった。商売的にも政治的にも、全体から見て、いかに「重要度が低いか」は、身にしみて知っている。外務省でもそうに違いない。カリブ担当なんて、普段はやることないのだ。それが、政権交代後、なにかとゴチャゴチャしている最中にこんな突発が起き、きっと担当者氏が「あれをしなければ、これをしなければ」と言っても、上司や関係者に相手にしてもらえなかったんじゃないか・・・などと憶測してしまう。いずれにしても、重要度の判断については、この人個人の責任ではないだろう。

まぁとにかく、地震大国日本なんだし、阪神大震災15年でもあるし、前はちゃんとできてたんだし、たとえすぐ人を派遣するのが難しくても、「これこれをやります」って、総理大臣がすぐに言うだけでも言ったらよかったのに。実際には、寄付をしたい人はちゃんと民間ベースでやっているし、こういうときはヘタにモノを送るよりもお金がいいのはそのとおりなのだが、そういう問題ではない。

こういった援助については、国際社会の中の先進国としては、「冠婚葬祭」と同じで、ちゃんとタイムリーに対応しておつきあいするのが普通じゃないのか。こんな気の毒な国で何十万人が死んでいるかもしれないのに、しかるべき担当者がそれなりの対応もできないほど、常識レベルの国際おつきあいもできないほど、「小沢疑惑」は大変なことなのか。インフルエンザ騒ぎのときもそうだったが、やはり海外には興味のない「鎖国」傾向が、メディアと政府を中心に、ますます強くなっているのかと思いたくなってしまう。

ハイチそのものの重要度だけの話ではない。ハイチに利害関係を持つアメリカのメディアでは、国民のこういったものに対する反応は敏感なので、「日本もちゃんとやってます」というぐらいは一応言っておかないとまずいんじゃないか。別に無理してスタンドプレーをする必要はないし、やったからといって日本が取り上げてもらえるわけじゃない。日本なんてどうせ無視されてんだから。でも、だからこそ、こういった国際社会での「日本ブランド」維持のため、たとえ目立たなくても、日ごろから最低限のおつきあいはきっちり「タイムリーに」しておかないといけないんじゃないか。インターネット時代だからこそ、やっておけば誰かがどこかに必ず痕跡を残してくれる。たとえ主要メディアが書かなくても、「神様」ならぬ「ネット上の誰か」が必ず見ていてくれる。

災害への迅速な対応が適切にできるかできないか、ということは、一般国民に対する政治家や国のイメージの上で、思わぬ重要度があったりする。ブッシュが本格的に落ち目になりだしたきっかけは「ハリケーンカトリーナ」だった。阪神大震災のときの村山首相もその後悪い印象を残した。オバマが「え?そんなにおおごと?」と思うほどの対応をしているのは、その教訓があるからだろう。言うまでもなく、別にオバマ本人が全部やってるわけじゃなく、しかるべき人が権限の範囲でやっているのだが、そういう人がちゃんといて、そういう機能を政権として備えているということの証拠ということだ。

鳩山政権には、これからでもいいから、頑張ってリカバってほしいものだ。Better late than never、である。

当記事の英語版エントリーはこちら。やっぱり日本語だと書きやすいなぁ・・・(嘆息

<追記>
あ、そうそう、書き忘れたが、アメリカには出稼ぎや政治亡命でやってきたハイチ人がたくさん住んでいる。特にこういったカリブ系はマイアミやニューヨークに多いので、ニューヨークにいる頃は、タクシーの運ちゃんとかでよく出くわし、英語が通じなくて困った・・・アメリカが近しい利害関係があるというのは、そういうこともある。日本とは事情が違う。それはそのとおり。

<追記その2>
日本でのネット寄付送金先リンクはこちらの記事にリストされています。
ヤフーやニフティなど、ハイチ地震の被災者への募金を受け付け -INTERNET Watch Watch

*1:ところが担当早々、その一つ「グレナダ」にある日アメリカが侵攻して新聞の一面に載り、強烈にぶったまげたいことは懐かしい思い出。