金持ちをたくさん働かせる仕組み

「分配」志向の民主党政権になって、「格差是正」に期待が高まっていると思うのだが、メディアの論調がしばしば「義賊」待望になっているのは気に入らない。「義賊」とは、鼠小僧とかロビンフッドみたいに、金持ちから奪って貧乏人に分けるという考え方である。わかりやすいのだが、それを政治でやっちゃうと、金持ちはますます自分の富を隠し、世の中のために流通しなくなるし、また「成功しよう」という個人のインセンティブを奪って、昔のソ連になってしまう。

それよりも、お金持ちのお金を、普通の人にはできないリスキーな投資に向けさせたり、優位な地位にある人から先に雇用流動化の荒波をかぶるようにする、などといった、「金持ちをなるべくたくさん働かせる」仕組みを志向すべき、と思う。

そんなことを考えたのは、最近早稲田の社会人ビジネススクールの方々と話をする機会があり、「どうしてスタンフォードMBAの方々は皆起業志向なんですか?」という質問をされたのがきっかけだ。この質問は、私にとっては「日本人はどうしてお箸を使うのですか」という質問と同じように、あまりに当たり前のことを聞かれたような感じがしてちょっととまどったのだが、体感で答えた。

「誰も雇ってくれないから、自分で起業するしかないんです。」

このあたりの心理は、「ねじれ人生」の「unemployable」に関するエントリーを参照してほしいのだが、スタンフォードMBAという、いろんな意味で優位な地位にある人々は、オーバースペックのためにしばしば、普通の会社で普通に勤めあげることができなくなる。自分で考えてやるしかない状況になりがちなのだ。でも、人脈とか箔とかスキルとかがあるので、たとえトラディショナルな形でのベンチャー起業ができなくても、私のように自営をはじめるとか、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などの形でかかわるとか、自分でなんとかすることがたいていはできる。

日本は雇用流動性がないのがいろいろな問題の根になっているが、「雇用の流動」というと、派遣とかフリーターとか、新卒採用抑制とか、「下」のほうに属していて、つぶしの利かない人たちばかりが犠牲になっている感がある。でも、本当なら、「上」のほうに属する優秀な人たちこそ、雇用が流動化したほうが、新しい産業を興すという意味で、世の中のためになると思う。(というか、年齢的に「上」の人がずいぶん犠牲になっているのは確かだが・・・つぶしの利かない人が犠牲になっているというのはこちらも同じ。)

老人ばかりがお金を溜め込んでいるという批判も同じ方向で解決したいところ。

たとえば、JALの再建問題の中で、OBが年金を減らされることに大抵抗しているという話があるようだが、例えば「年金ちゃんとあげるけど、その○割は『JAL再建OBファンド』に投資してね、もし見事再建成ったら倍返しだけど、失敗したら全部パーね。で、この話に乗らない人は年金一律カットね。」みたいにしたらどうなんだろう。ジャンク並みのJALには誰もお金貸してくれないが、そういうときに入れる資金は「ハイリスク・ハイリターン」だ。こうしたら、OBも再建にいろいろな形で必死に協力するだろう。まぁ、金額的にはどうってことないのだろうが、ただ単に収奪するのではそりゃ抵抗もあるだろうし、そうではなく「お金を働かせる仕組み」というインセンティブとして、どうなんだろう、と考えた。

などとふと思ったので、書いてみた。