「トウキョウソナタ」の黒沢清監督がいいこと言った件について

香川照之小泉今日子役所広司などが出ている日本映画「トウキョウソナタ」が現在米国で公開中。といっても一度に2スクリーンぐらいの限定公開だが、カンヌをはじめ各地の映画祭で好評を得ていることもあり、アート系映画の好きな人たちはよく知っている。先週サンフランシスコでのプライベート・スクリーニングでは、小さいながら劇場は超満員で、はいれない人もいたようだ。

いつものように、HollywoodNewsWireから素材の供給を受けたので、黒沢清監督のインタビューを英語記事にして「邦画セントラル」にアップした。

http://www.hogacentral.com/
http://www.hogacentral.com/Special_KK_TST.html

記事は英語になってしまっているが、ご勘弁。

この映画は、会社をリストラされたお父さんが、家族にその事実を伝えられずに毎日会社に行っているフリをし、小学生の次男はピアノを習いたいのに「ダメ」とお父さんが言い張るので隠れてピアノ教室に通い、長男は突然アメリカ軍にはいると言い出し、家族をなんとかつなぎとめようとするお母さんがついにその役割に疲れてしまう・・・といった、家族の「ミスコミュニケーション」とその再生の物語。日常的でありながら、突拍子もない設定も突然登場する、不思議にリアルで不思議にファンタジー的なお話で、特にキョンキョンが泣き崩れる場面など、すごく共感してしまった。役者さんたちがみんなすごくよい演技をしているとも思った。

インタビューの中で、とても共感する部分があったので、少しだけ抜粋をご紹介したい。

Q:今の日本についてのどんな意見をお持ちですか?
KK:日本だけに固有の状況というのはなくなっていて、必ず世界全体の動きと連動していると思います。今、本当に何かが大きく変わりつつあるかなという気がします。いろんな点で不安定で混乱していると思いますが、(中略)映画を志している若い学生たちと会って話していますと、ああ、この若者たちは本当にしっかりしているなと実感します。世間で言われているような何か意志の弱い、頼りない人たちでは決してないというのを実感しています。(中略)ただ、彼らが考えている未来というのは、たぶん大人のぼくたちがかつて理想としていた未来の姿と随分違う未来を彼らは思い浮かべ、そこに向かって一生懸命努力をしているので、それはどうなるかすごく楽しみですが、ぼくらが思ったようにはたぶんならないでしょう。でも、その思ったようにならないことこそが、今の混乱した変化、嫌でも変化している日本を予想できない彼らの未来の姿がぼくにとって希望のように思えてならないですね。

映画の人というのは、ハリウッドもそうだけれど、いわゆる「マスメディア」機構と「コンテンツ産業」という意味では同じなのだけれど、ちょっと違う気風がある。世間の大勢に合わせる(場合によってはそれを作り出す)ことが重要なマスメディアと比べ、(大ヒットを狙った大作でない)中小規模の作品を作る人たちは、世間の大勢とちょっと違う視点で表現しないと面白がってもらえない。そんな目線がこの発言にも感じられる。日本のマスメディアの言う、口当たりのよい「今どきの若者は」批判を否定している。

そして、この話は、先日私がJTPAの対談の中で話したことと共通する。先がどうなるかわからない世の中だからこそ、試行錯誤が必要だし、その過程で失敗もあるだろう。その先に出現するものは、おそらく現時点では思いつかないようなものになるはずだ、と私も思っている。

その昔、子供のころ、マンガなどに登場する未来の世界というのは、自動車が空を飛んだり、空中にチューブが張り巡らされてその中を高速列車が走っていたりした。私は「東名高速道路」が開通したときのニュースをリアルタイムに聞いたのだが、そのとき私は、本当にそんな「透明」な高速道路ができたのか、と思ってワクワクし、実際にはただのアスファルトだったのですごくガッカリした。

未来は、大人の思っているようにはならないのだ。

ご興味おありの方は、是非英語の記事をお読みください。