映画の夏−「どうせCGでしょ」にかみついてみる

アメリカでは5月から夏休み映画のシーズンが始まっているが、なんとなく今年は、例年に増して、企画にも俳優にもCGにも、お金と手間をふんだんにかけた作品が多いような気がする。我が家では、長男が「完全な子供映画」年齢層を卒業したため、子供と一緒に見る映画の幅がちょっと広がったことも原因かもしれないが、それにしても、子供も私も見たい映画が多く、なんだか毎週、映画館に通っているような気がする。

夏シーズンにはいってから、「スピード・レーサー」(「マッハGoGoGo」のハリウッド実写版)、アメコミのヒーローもの「Iron Man」、「カンフー・ハッスル」の動物アニメ版みたいな「Kung Fu Panda」ときて、今日はスティーブ・カレル主演のお笑いアクション映画「Get Smart」を見てきた。長男は友達と一緒に、アダム・サンドラー主演のおバカ映画「You Don't Mess With Zohan」も見ている。そして、来週にはピクサーの「Wall-E」、7月半ばにはヒース・レジャーの遺作となってしまったバットマン新作「The Dark Knight」、8月にはシリーズ初の劇場アニメ「Star Wars - Clone Wars」など、目白押しである。映画制作は何年もかかるので、今年こんなラッシュになったのは、この夏あたり、新世代DVDが普及期にはいるという予測のもとに各社やってきた「ブルーレイ特需」なんじゃないか、と素人的には想像している。画面のつくりに凝っているものが多く、高品質のブルーレイと、大画面液晶テレビで見ることを想定しているのかな、と思うからだ。

しかし、こういうつくりの映画は、本当はブルーレイと大型テレビよりも、劇場の大画面のほうがもっといいだろうと思う。私がこのところ、子供をけしかけるようにして、この種のCG満載アクションを見に行くのは、そのせいだ。

少し前まで、CG満載の大型映画のことは、バカにしていたというより、私には無縁のものと思い込んでいた。2時間プラス行きかえりの時間という、大量に時間を消費する娯楽である映画館通いは、私の場合には、仕事の予定をやりくりし、ベビーシッターを雇い、子供の食事を準備して、なんやかんや・・と面倒なので、ついつい足が遠のく。数少ない映画館で見る機会は、「高等な映画」を見なきゃいかん、一方でCG満載型映画は、ハリウッドの主要顧客であるティーンの男の子向けだから、私が見て面白いわけはない、と思い込んでいた。

そして、その考え方を助長するのが、映画評論家だ。今日も、日経新聞の週末の映画評で「インディ・ジョーンズ」最新作の批評が載っていたのだが、締めくくりは「なんだかんだいって、どうせCGでしょ、としらけてしまう」というのが結論だった。もう2年前になるが、「Always - 三丁目の夕日」の山崎監督(CG/VFXの専門家から監督になった)にニューヨークでインタビューしたときも、オトナがいかにCGが嫌いか、という話を身にしみたように語っておられた。別に、日本だけのことではない。アメリカでも、CG満載娯楽大作はアカデミー賞をなかなか取れないし、批評家の点数は辛い。

こうして、私の時間配分の優先度の中で低く位置づけられてしまったために、ここ数年だけでも、「ロード・オブ・リングス」も、「スターウォーズ」も、「パイレーツ・オブ・カリビアン」も映画館で見ないで過ごしてしまった。ところが、最近子供たちが「スターウォーズ」にはまり、補習校への往復の間、彼らが車の中でしつこく何度も見るために、私までセリフを覚えて日常会話に思わず使ってしまうぐらいになって、これらの娯楽大作を映画館で見逃したことに、強烈な後悔を感じるようになった。特に、とどめの「パイレーツ」は、本当にタッチの差で逃したので、本当に本当に悔しい。あとになって、「こんなに面白いモンだったのか!」と思っても時すでに遅し。どんなにヒットした映画でも、あとになってから映画館に戻ってくるということはめったにない。*1封切りから何週間かのチャンスを逃したら、もう終わりなのだ。

それで最近は、特にILM*2がCGを手がけている実写映画とピクサーのアニメは、評判がどうあれ、好きか嫌いかもかまわず、とりあえず映画館で見ておきたい、と思うようになった。「インディ・ジョーンズ」は実はまだ見られていないし、前3作と比べて見劣りする・・などと言われているが、80年代の前作シリーズのファンでもあり、これもILMがやっているので、はやいとこ見に行かなきゃ、とあせっている。

この夏、これまで見た中で一番よかったのは「Iron Man」*3。興行成績も見た人の評判も、今のところこれが一番ではないかと思う。CGだけではなく、お話の筋書きも主演の演技の魅力も、すべて合わせてほかよりも勝っているように思えた。これにしても、以前の私だったら見たいとは思わなかった種類そのものずばりである。アメコミは好きじゃないし、ポスターなどのビジュアルも全く心を惹かれなかったからだ。でも、見てみたら面白かった。

どうせCGでしょ、って言うけど、CGってすごいんじゃない?CGのおかげで、いろんな種類のファンタジー映画が可能になって、映画館の中で2時間、夢の世界を楽しめるようになったんじゃない?それのどこが悪い?

毎日、仕事でたくさんの映画を見ている評論家は、見る目が肥えているし映画を評するためのボキャブラリーもたくさん持っていて、すごいと思うけれど、一方で、たまにしか映画を見に行かず、気晴らしのために映画を見る普通の観客とは感覚が違っているだろうと思う。

そして、多分批評家がけなす原因は、コンピューターがあれば、誰でもCGができるから、作品性に乏しい、ということなのかもしれないが、それはちょっと違う。CGも技術だけじゃなくて、創意工夫や芸術性や表現力がなければ、すごいものはできない。山崎監督がどうやってあの画面を作ったか、という裏話をいろいろ伺って、このことを痛感した。CG満載映画だって、いいものとそうでもないものがいろいろある。CGだけじゃダメだけれど、演技だとか演出だとかに加えて、CGも表現の一つとして、正当に評価してもいいんじゃないかなー、と思う。

映画の好みはみな人それぞれだから、CGが嫌いでも別にかまわないけれど、もし食わず嫌いだったら、騙されたと思っていっぺん見てみるのもいいかもしれない。

*4

*1:昔、日本には「名画座」というのがあって、旧作をやってたけれど、アメリカではそういうのもあまり見かけない。

*2:Industrial Light and Magic、ジョージ・ルーカススターウォーズ制作のために設立した映画特殊効果の会社で、最近はルーカスフィルム以外も手広く手がけている。ILMについては、私の著書「パラダイス鎖国」の中でも触れている。

*3:これもILMがやっている

*4:一応、ほかの映画も一言ずつ言っておくと・・・「スピードレーサー」前評判ほどは悪くなかった。ただ、ストーリーがわかりづらく、主演の演技がイマイチで、引き込まれ感に欠けた。「カンフー・パンダ」大笑いでめっちゃ面白い!それにしても、最近はやりの、「声優の顔に合わせて動物キャラを作る」という流儀で、どうやったらあんなにパンダ(ジャック・ブラック)をブサイクに作れるんだ・・・という点に心底感心。ほかにもダスティン・ホフマンアンジェリーナ・ジョリージャッキー・チェンなど有名どころが声をやっている。「Get Smart」とくに前半お笑いは確かに少々足りないが、少々ひねった笑いと「オタク」風味を加えたアクション、それに面白い俳優がたくさん出ている(マシ・オカも出てる)。個人的にスティーブ・カレルが好きで、彼が大真面目な顔でセリフを言うだけで笑いが出そうになる・・・という特殊事情もある。オチが日本の「交渉人・真下正義」に似てるのはパクリか否か??