バルマーの誤算 - 嫌われ者の思考回路

「嫌でござりまする。無理強いなさるならば、わらわは毒を飲んで死にまする。」と言って、女は本当に毒を飲み始めたので、さすがにあきらめた男。

時代劇少女マンガみたいなヤフーvs.マイクロソフトの幕引き。いつものように、マジメな分析をご希望なら他の記事を読んで欲しい。

ジェリー・ヤンに宛てたスティーブ・バルマーの手紙を読んで思ったことがある。バルマーは、「グーグルが、グーグルが」と負け惜しみを散々言っているのだが、それがどうも、「ボコボコにやられて、最後はえらそうに『今日はこれくらいにしといたろ』と言って逃げていく」お笑い芸人に見えてしまうのはナゼ?

前に、Xboxは結構すごい、というエントリーを書いたことがある。ゲームとしてどうかというより、ネットにつなぐ機器とそれを使った種々の機能の高いレイヤーでの統合、という意味で、おそらくXboxマイクロソフトのネット戦略の「実験」的な位置づけなんだろうな、なかなか上手くできている、と感心したワケだ。このほかの買収事例とか、Web2.0Interopなどの展示会で見るクラウド・コンピューティング戦略など、彼らのネット戦略の方向性は、間違っていないと思う。Xboxみたいに、「やるな」と思うところもある。

しかし、それがいまいち勢いを得るところまで行かないのは、究極的にはネットの世界で「マイクロソフトが嫌われているから」に尽きるんじゃないだろうか。

シリコンバレーから見ているので、偏った見方なのかもしれないが、当地の展示会でMSがデベロッパーにいくら色目を使っても、当のエンジニアたちの反応は冷ややか。ギーク・メディアの反応も同じ。携帯展示会では「MSは皆様携帯キャリアの味方でございます」とも何年もやっているのに、キャリアもメーカーも冷ややか。従業員でもない一般ユーザーが、アップルの店で買ったアップルTシャツを買って喜んで着ることはあっても、マイクロソフトのTシャツを店で買って着る人はほとんどいないだろう。

バルマーは、グーグルが検索広告で支配的地位を持って、自分の基幹ビジネスであるソフトウェアが「無料サービス」に脅かされることに危機感を持つ。それは正しい。けれど、その先の思考回路が「ソフトウェアの世界で自分たちが周りから散々叩かれたのと同じように、検索広告でグーグルは嫌われ者であるに違いない」「だから、敵の敵は味方」「だから、ヤフーを買収するのはみんなのため」となっているようで、それはちょっと違うかも。

確かにグーグルはドミナントだし、それを警戒する論調があるのも確か。DiggFacebookなど、大物Web2.0企業がグーグルの支配を嫌ってマイクロソフト陣営に鞍替えした事例もある。しかし、グーグルの検索広告エンジンで潤っている周辺産業はまだまだ数多く存在し、グーグルのやり方はマイクロソフトの「北風」に対して「太陽」的である。シリコンバレー・エコシステムの基盤となっていて、またその企業文化からして、MSほどの「敵」を作らないようなやり方をしている。

ヤフーにしても、最大の競争相手であり自分たちをここまで追い詰めた真の敵はグーグルであるにも関わらず、MSに買収されるよりもグーグルに助けを求めた。教科書的な戦略から言えば合理的かもしれないMSとの統合よりも、明らかに「毒」であるグーグルのほうが「まし」だと思ったからだろう。そして、ヤフーの株主も、メディアの論調も、ジェリー・ヤンのその選択に真っ向から反対するところまではいかなかった。

バルマーがいくら「グーグルの支配的地位の濫用でヤフーはやられてしまうぞ・・・」と言っても、「オマエが言うな」と思えてしまう。ヤフーも含めた世の中的には、マイクロソフトが嫌われているほど、グーグルは嫌われていないのである。この点が、バルマーの誤算だったんじゃないかと思う。

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