グーグルやマイクロソフトは「メディチ家」か

今年のWeb2.0Expoは、予想通り、昨年より大幅に盛り下がっている。世の中的にも、「もうWeb2.0は終わりね」という雰囲気が蔓延しているのはご承知のとおり。初日のキーノートで、Tim O’Reilly自身が、いろいろしゃべったあとで「それでもWeb2.0は終わりだと思うか?」と反語的に問いかけたことが、それを如実に反映している。私も、ちょっと用事があったので来ているが、そうでなければもともと来る気はなかった。キーノート講演者のラインアップも、去年はJeff BezosとかEric Shmidtなど大物がいたのに、今年はせいぜい、SlideのMax Levchin、Mark Andreesen、Jonathan Shwartzぐらいなもの。

Expoの運営戦略による要因はとりあえず置いておき、業界全体のこの温度差の違いのキーポイントは、「広告」じゃないかと思っている。去年は、SNSを中心としたWeb2.0系の新しいサイトやサービスが、「広告」で成り立つ新しいメディアになる、との期待が大きく、広告関連のワークショップも多かった。いかにも広告関係、メディア系っぽい、華やかな雰囲気の参加者も多かった。ところが、今年は全くといっていいほど、広告の話が出ないし、「イケメン広告マン」もいなくなった。1年やってみたけれど、期待ほど広告が商売にならなかった上に、サブプライムローン問題を引き金にした景気後退により、企業の広告は真っ先に削られるという先行き不安もある。話題を集めるFacebookのアプリのセッションでは、やっている人たち自身も投資家も、「広告だけじゃダメだろう」と思っている様子だった。そもそも、Facebook自体が儲ける方法を見つけていないのに、その上に乗っかるさらに小さなフラグメントであるアプリが、広告で儲かるわけはない、と醒めた言い方をしていた。

で、結局こういう人たちは、最終的にグーグルかマイクロソフトに買ってもらうことを目的に起業しているし、投資家もそのつもりでいるだろうと思う。そして、YouTubeでもFlikrでもFacebookでも、それ自体では儲からないのに、これらの企業がたいそうなvaluationで買ったり投資したりしている。

つまり、Web2.0商売が「金持ちの道楽」になっている、という気がするのだ。もちろん、たとえばグーグルだって、最初どうやって儲けるかわからない状態で立ち上げ、サーチ広告という金脈をあとで掘り当てた。だから、長期的にはこれらの投資対象も、いつかは儲かるようになると期待してのことだろうけど。

その昔、ルネッサンスの画家たちは、貿易で大もうけしていたメディチ家の庇護を受けて活動した。メディチ家自体でその投資が回収できたのかどうかは知らない。おそらく、短期的には完全に持ち出しだったろう。しかし、非常に長い目で見れば、歴史に名を残す芸術家がその中から何人も出た。

昨今のWeb2.0を見ていると、なんだか「メディチ家に庇護されている芸術家」みたいな気がしてくる。さて、現代のメディチ家の庇護下から、歴史に名を残すサービスが出るだろうか?

そして、とりあえずWeb2.0Expo自体は、雲をつかむような、ふわふわした「楽しいみんなのWeb2.0」「誰でもお金持ちになる可能性のあるゴールドラッシュ」から、「対グーグル包囲網(MS、Yahoo、IBM)の共同デベロッパー・コンフランス」みたいになりつつある。業界のフォーカスも、引き続きSNSや「ソーシャル」面が中心ながら、「Cloud Computing」というコトバに置き換わりつつあり、「エンタープライズ向け」や「モバイル向け」でかっちり手堅く儲けるという方向になりつつあるように思う。

まー私としては、ようやく本来の姿に戻ってきた、というように思えるのだけど。

ところで、昨日のキーノートに出てきたマーク・アンドリーセン。会社のオフィシャルサイトにあがっている写真とずいぶん違うやんけ!
 ←こちらが昨日
 ←こちらはオフィシャルの写真

昨年のレポートはこちら
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