周波数オークションは是か非か −「子供のはしか」論

いつもお世話になっている「一日一麺」さんに、今日は日米WiMAXの記事が載っている。

http://blog.novsix.com/2007/12/sprint_xohm_and_wimax_in_japan.html

元記事はこちら→
Archives - DailyWireless
政府に2.5GHz帯の配分を決める能力があるのか--有識者らが討論 - CNET Japan

スプリントのXOHM(ゾーム、と読む→よめねーよ!)が、まもなくソフトローンチとか。グーグル参加で大騒ぎになっている700MHzオークションが始まる前に、実績を誇示しておこうということだろう。ワシントンDCでデモを始めるのは常套手段だが、シカゴでやる、ってことは、ここはモトローラ組がやるのだろうか。(3社ぐらいベンダーが分け合っていた、と記憶している)

で、わが日本では、池田信夫先生や金正勲先生などが、総務省ヒアリングでおおいに噛み付いている話も興味深い。

私は、何を隠そう(隠してない)、アメリカでFCCの周波数オークションに、実際パソコンの画面から金額入力して「send」ボタンを押したことのある数少ない(もしかしたら唯一?)の日本人。このCNETの記事にもある、「オークションで資金を使い果たしてサービス展開できなかった例」の張本人企業の従業員であったからだ。

まーあのときは大変だったけれど、アメリカの状況下では、周波数はオークション以外のチョイスはありえない、というのも実感としてわかる。是か非かというレベルの問題ではない。なにせ、免許が地域別に分かれており、あのときのデジタル携帯免許の区分だと、大きい区分でも51地区、小さい区分だと500近い分け方になっていて、それぞれに免許が2つまたは4つついている。まー、ざっと2100ぐらいの免許が売りに出てるわけだ。なんでそうなったか、というのは歴史的な経緯があって、そもそも最初のアナログ免許を出したときに、地域電話会社や地元のページャー会社などの営業区分がそういう感じになっていたために、地域別免許で出発し、その後デジタル免許が出るときに、全国統一免許を検討したけど「それじゃ不公平!」と既存業者が大反対したので、結局そうなったのである。

そんな膨大な数の免許を、誰がいちいち審査して決められるかい、ということになる。つまり、「ロングテール」状態なのである。したがって、アナログ免許のときは、まだネットもなかったし、なんと「先着順」であった。もちろん、その後は大混乱した。それに比べれば、デジタル免許のオークションなど、混乱といってもたいしたことはなかった。一番大変だった、私のかかわったCブロックというのは、たまたま「新規参入促進のために、中小企業に優遇分割払いを認めよう」ということをくっつけてしまったために、その後資金調達困難などの混乱に陥っただけで、それ以外のところでは粛々と行われていた。ロングテールなものの値段を決めるのは、マグロを競りにかけるのと同じように、オークションでやるのが一番公平で面倒がないのだ。その後、アメリカの周波数オークションは、何年もかけて今ではすっかり定着していて、目立つ携帯電話などの他、小さなものでも、FCCのサイトでの「ネット・オークション」の仕組みでたびたびやっている。

日本の状況は、むしろ欧州の3G免許のときに似ている。欧州は全国統一免許であり、数少ない免許を大手が椅子とりゲームで争う、ということであり、最初のケースでもあったため、過熱してその後各社は資金難に陥って3G展開が遅れた。それは、確かにそのとおり。ただその頃は「テレコムバブル」が崩壊した直後だった、というタイミングの悪さもあった。

私としては、日本でもいっぺんオークションやってみたらいいんじゃないの、と思っている。きっと、過熱して大変なことになるだろう。でも、最初はそういうもので、仕方ない。子供が小さいうちにはしかをやって免疫をつけておくのと同じで、どこかで免疫をつけておかないと、いつまでたってもオークション方式を使うことができなくなってしまう。ちょうど、WiMAXスプリントとクリアワイヤでミソがついてやや盛り下がったタイミングでもあり、スプリントのXOHMもこけそうな予感だし、日本は最初の本格市場としてリスクも大きく、「安全確実、絶対儲かるデジタル携帯電話」のときほどの大過熱にはならないだろう。

オークションでもそうでなくても、金先生が仰るように、「技術の動向により、採用技術をフレキシブルに変えられるようにしておく」ことは絶対必要である。この先どうなるかが予想しやすかった、90年代の携帯電話市場と今は違うのである。無線ブロードバンドでどうやって儲けるのか、誰もわかっていないし、どの技術の枠組みが一番適しているのかも、わからないのだ。フレキシビリティがないと、日本のブロードバンド無線は、またもや「ガラパゴス化」への道をつっぱしることになりかねない。