パワフルな「産業」としてのカリフォルニア農業

ウチの家系は先祖代々サラリーマン(江戸時代も下級武士=サラリーマンだったらしい)で、住んだことのあるところも都会か郊外なので、私は農業というものに対して実感がない。仕事でもこれまで全く縁がなかった。それが、たまたまこのところ、ワインから始まって、カリフォルニアの農業地帯といろいろ縁ができた。

夏休みには、子供の日本語補習校の自由研究のネタに、と思い、フレズノにほど近いアーモンド畑での収穫を見せてもらいに行った。機械でゴゴゴゴと木を揺らし、落ちた実を道路掃除用ロードスイーパーのような機械でぶおーんと吹き飛ばして集め、巨大なトレーラー・トラックに積み込んでがぁーっと運び出す。ゴーカイでアバウトでパワフルな、極めてカリフォルニアらしい農業ではある。子供たちはもちろん大喜び。(写真は、アーモンドの木を揺らす「tree shaker」。10秒に一本という驚くべきペースで木を揺らしていく。)

農家の人の話では、最近は中国やインドの生活水準の向上や、アメリカでの健康指向のおかげで、アーモンドは人気があるのだそうだ。そうしたらその少しあと、ウォールストリート・ジャーナルに「最近はアーモンド畑への投資がブーム」という記事が載っていた。本当に、そういうことらしい。

帰ってからネットでアーモンドのことを調べると、UCデービスの論文などをヒットする。そういえば、ワインや酪農の技術研究もUCデービスは盛んだし、カリフォルニアの農業とUCデービスの関係は、ちょうどシリコンバレースタンフォードの関係みたいなものなんだな、と納得。

南カリフォルニアへの自動車旅行でよく通る、高速5号線沿いの中央平原も、アーモンドや桃などの果樹園が延々と続き、巨大な牛の集荷場があったりする。しかし、アーモンド畑に行くために、5号線と並行して走る99号線という一般道を通ったら、こちらはもっとすごい。何がすごいかというと、産業が栄えている、ざわめきの音が聞こえてくるほどのパワーが感じられるのだ。

5号線は何もない平原を通るが、99号線は古くから農業地帯として発達した地域の幹線道路なので、町が数珠繋ぎになっている。道路と並行して鉄道もあり、道沿いにはサイロや飼料工場や集荷場など、さまざまな農業用の設備や企業、大学までもが立ち並ぶ。南に下ると、町と町の間の距離がかなり長くなるが、マンテカ・モデスト・メルセド・マデラ(なぜか全部Mなので、どれがどれだかサッパリわからない)あたりまでは、かなり人口が集中している。そして、ベイエリアの不動産が高すぎるせいで、このあたりまでものすごい勢いで宅地開発が行われている。(サブプライム・ローン騒ぎのあとどうかわからないが・・)実際来てみるまでは、「過疎地帯」という感覚でいたが、とんでもないのだ。サンフランシスコとロサンゼルスという大消費地が近くに二つあり、高速80号線を東へ走れば道一本で(といってもものすごい距離だけど)ニューヨークに達する。気が遠くなりそうな、広大かつ膨大な規模感だ。

日本で見る農村が「ライフスタイル」としての農業の風景であるのに対して、ここでは「産業」というパワーが実感される。地平線まで整然と続くアーモンドの木の列は、まるで工場の生産ラインのようだ。そして、ここで生産されたアーモンドは、世界中に輸出され、カリフォルニアは世界の輸出量の7割だか何だかを占める、圧倒的な競争力を持つ。

GeekとGreedyばかりのシリコンバレーから逃れ、農村地帯でのんびり・・などという感じではない。中央平原も、バリバリ世界で競争している産業の集積地なのだ。そんなの疲れる・・と思う人もいるだろうが、やたら広くて深い青空の下で、がんがん作って大きな世界相手に売っているカリフォルニア農業のパワフルで豊かな世界が、最近私はなんだかすごく好きになってきている。