「インターネットは誰のものか」を読んだ

少し前の中島さんのブログの、「インターネットは本当にパンクするか」というエントリーに関して、日本ではこれが議論のスタンダードになっているらしい、という本を読んでみた。

Life is beautiful: インターネットは本当にパンクするのか

総務省のエース、谷脇さんの著書である。

インターネットは誰のものか

インターネットは誰のものか

「ネット中立性」の問題は、中島さんがおっしゃるように、いろんな立場の人がそれぞれ自分の有利なようにいろんなことを言っていて、この本は「日本の総務省の人」の言い分が書いてあるわけだ。(わざわざ本の最後に「これは著者の意見であり、必ずしも総務省の考えではないところがある」と断り書きがしてある。)

だから、読む人はまず、「これがオーソリティ」と思わず、「これは数多い意見の一つ」と思って読むべし。

で、書物としての感想。前半のインターネットの仕組みや、その中でのお金の流れの仕組みについての説明や、こうしたことのためにどういう問題が今起きているのか、という「現状把握」の部分はとても緻密かつ懇切丁寧で、話の流れもわかりやすく書かれている。↑でこんなイヤミなことを言ったけれど、「現状把握」に関しては、日本語ではこれがオーソリティ、としてもいいんじゃないか、と思う。さすが、と思いながら読み進む。

ところが、後半「では、どうやって解決したらいいのか?」という部分にはいると、私の頭は混乱し始める。いや、解決方法をめぐる立場やコンセプトが私と違う、というのは当然であり、また私が必ずしも正しいわけではないので、それはいい。ただ、「例」や「傍証」と、そこから出て来る「結論」がなんだか矛盾していて、わかりづらいのである。

例えば、ネットワーク混雑を解決する可能性のある技術として「P2P」が位置づけられているが、現在のところ、ネット混雑の最大かつ最もやっかいな原因が「P2P」であり、そのことは同じ本の中の別の部分でもグラフの数字としてはっきり出ている。あるISPトラフィックの内訳グラフが出てきて、その8割以上がP2Pなのだ。サーバーから一方的に下へと流れるタイプのトラフィックで、サーバー側に混雑が出ているなら、P2Pで解決、というのはわかるけれど、そうではないので、話の流れがよく理解できない。

例えば、「ネット中立性」のすべての問題の根源は「ネット混雑」にあるので、それをまず解決せねば、とあちこちでおっしゃっている。しかし、一番の「ホット・ボタン」である、「NTTがアクセスを独占しているために、NTTと競合するサービスが意地悪されてしまう可能性」というのは、ネットが混雑していようがいまいが、関係ないのでは、と思う。ネット混雑を解決したら、アクセス独占が解決するんだろうか??

例えば、ブロードバンド事業者であるGyaoのコスト構成が出ている。バックボーンへのアクセスコストは4%ほどで、大半がアクセスのコストとなっているのだが、それを「バックボーン混雑が元凶」という例に引くのは、ちょっと無理があるような・・・

それで、部分的には「なるほど」と思うこともあるのだけれど、全体の印象が「なんでこういう結論になるの?」となってしまった。

前半を読んで、「さぁ、それでどんな提言が??」とワクワクしただけに、気持ちよく説得されなかったことが残念だった。

事実は事実なので、すんなりそのとおり書けたけれど、「どうすべきか」については、あちこちからチャチャもはいるし、紙数の中で十分説明ができなかった・・ということなのかもしれない。

サテ、「自分の意見を言わない卑怯者」と思われてもイヤなので(^^;)、私が、アメリカの事例をずーっと見ている中でどう思っているか、について一つだけ意見を言っておくと・・・

インターネットはパンクしないと思う。バックボーンは、業者間取引であるために、需給状態によって料金が比較的よく反応する。需要が多くて投資が必要なのに、過当競争で値段が上げられない、という状態になったら、弱いところはつぶれたり買収されたりするし(渡辺千賀さん流に言えば「いやならやめればいい」)、売り手と買い手の契約で、原油だの小麦だのと同じように、ちゃんと価格は少しずつだけれど上がってきていると認識している。そうなれば、投資の余裕も出て、供給も増えてまた少したてば需給バランスがとれる。だから、バックボーンの混雑は、あまり問題がないと私は思っている。

これは、実はとっても「デジャ・ヴュ」な話。1995年、イーサーネットの発明者として有名なボブ・メットカーフ氏が、「1996年にはインターネットはパンクする」と予言して大騒ぎになったのを、ご記憶の方も多いだろう。彼は、予言がはずれたら、「I will eat my words」とまで言っちゃった。ところが、実際にはパンクしなかったので、1997年4月の講演会の壇上で、メットカーフはこれを書いたコラムのページを、なんだかの液体と一緒にブレンダーに入れて粉砕し、ボウルに入れてスプーンで全部食べた、のだそうだ。(笑・・こういう責任の取り方って好きだな〜。)上記の中島さんのブログで紹介されている記事にもこの話がはいっている。

(でももし来年ネットがパンクしても、私はこのブログを食べる気はありませんので、悪しからず・・)

ただ、一般消費者の「公共サービス」に近い「ブロードバンド」については話は別で、長くなるのでこれはまた別の機会にする。