父の日雑感 - マネージメントとしてのお父さん、お母さん

今日は父の日ですね。お父さんがた、Happy Father's Day!!

アメリカでも日本でも、父の日は母の日よりも地位が低いのは共通の現象のようだ。日経の随筆欄にもその記述が今日あったし、一方昨日のサンフランシスコ・クロニクルによると、アメリカで父の日のプレゼントとしてのオススメ商品の値段はだいたい10ドルが相場で、母の日にはだいたい50ドルのものが並ぶのに比べて、格段にヤスモノ、なのだそうである。

これは、「社長の名前は知っているけど、副社長の名前はよくわからない」というのと同じことじゃーないかと思う。

最近のお父さん方、特に若いお父さんたちは、昔と比べてずいぶん家事や育児に関わるようになった。しかし、友人の男性が「オレは子供のオムツをいつも換えていた」と言って自慢するのを聞くにつけ、「でもそれって、工場でボルトを一個まわしてつけるのと同じようなもんだよな・・・」と内心思う。それは、確かにとても大事な仕事ではある。それがなければ、自動車がちゃんと組みあがらない。でも、自動車会社の社長がやっている仕事と比べると質が違う。

今の母親の仕事のうち、一番ストレスが多いのは、単純労働者としての「家事・育児の労働そのもの」よりも、経営者としての「家庭経営における日々の判断」の難しさだと思っている。少なくとも私の場合はそうだ。少し前に書いた学習障害に関する話でいえば、例えば子供が学校で問題を抱えているとしたら、どういった対策をうつべきか、などというのは一番大きい経営判断だ。もっと小さい例で言えば、夕食を作る作業そのものより、家族の好みや体質、栄養のバランス、冷蔵庫の中の在庫状況、サイフの中味、昨日家族がそれぞれ何を食べたか、などといったあらゆる要素を総合的に判断して夕食の献立を考えるほうが、よほど大変だし、ストレスが多い。失敗すると、「えー、これ今日の給食でも食べたよー」などとすぐに文句が出てしまう。

アメリカの家庭では、お金に関するマネージメントや判断は男性が行うのが通例で、お金の運用や、保険や住宅ローンなどに関しては、お父さんが判断材料を集めるところから決断まで行い、お母さんは助言だけ、ということが多い。(拒否権は持ってることが多いので結構強力だが・・・)日本ではサイフの紐をお母さんが握っているけれどアメリカはお父さん、と言われるのは、つまりは日本のお母さんはCFOも兼務しているということだ。

そういうアメリカでさえ、お父さんの家事・育児参加は、「経営判断」でなく「単純労働」に終始することのほうが多い。アメリカの育児雑誌でそういう記事を読んだことがある。「娘の靴を買いに行く」というとき、お父さんの場合、「お母さんに言われて娘と一緒に店に行って買う」ことはするが、「娘の靴の在庫やファッションの好み、靴の減り具合、娘の成長度合いをいつも見ていて、買う時期や買うものを判断する」部分はやらない、という記事だった。

問題なのは、特に女性の場合、自分が責任をもって判断をして何かを経営してゆくという訓練や心構えというのは、一般的に教育の中であまり行われていない。「家庭科」では、調理実習よりも、年金や保険や投資に関しての基礎知識を教えてくれたほうが、いまどきよほど役に立つと思うのだが、少なくとも私が子供のころはそうではなかった。(最近はそうなのかも?)昔は、「慣例」に従うことにより、判断を回避することができたが、今やそのやり方が通用しない。社会の変化が激しく、生活や子供の教育に求められるものが日々刻々変わっていく中で、その訓練も心構えもなしに、結婚して子供を持った女性は、いきなりCEOの座に座らされて、毎日毎日、大きなことから小さなことまで、決裁事項を持ち込まれてしまうのである。そして、判断に失敗すると批判を一手に浴びる。その報酬として、ストックオプションも高い報酬もなく、社用車や交際費がつくわけでもない。せいぜい、母の日には父の日よりも高額なプレゼントをもらうぐらいなものである。

お母さんは家庭のCEOだが、お父さんはヒラの従業員、頑張っても副社長だから、どうしても分が悪い。

そして、「少子化対策」の中で「女性の負担軽減」なるものが語られる場合、常に「労働者としての単純労働」の話ばかりで、「マネージメントのストレス」については全く考慮されていないように見えて、「なんか違うんだよなー」と思ってしまうのだ。

こういう構造を一気に変えようと思ったところで、なかなかそう簡単に変わるものではない。だから、家庭を持つ女性は、これは「マネージメント」であると割り切り、「家の中に他人を入れたくない」と言っていないで、必要に応じて従業員を増やしたり外注したり、「部下に指示する」つもりでお父さんや子供に仕事を分担し、重要なところにリソースを集中する(=優先度の低いところは手を抜く)などといった判断をしていく必要があるんじゃないかと思う。部下に気持ちよく働いてもらうには、インセンティブ設計もしなきゃいけないし、おだてたり表彰したりも時には必要だ。いやー、いまどきのお母さんは大変だ。(特に、外部の人を部下として使うことは、多くの女性にとってストレスのほうが大きく、最初から避けてしまうことが多い。)

ただ、そうやってもCEOの報酬は増えない。だからせめて、副社長に活躍してもらって、CEOの負担を軽減するしか仕方ないと思っている。指示待ちで単純労働するんじゃなくて、一番大変な、「判断材料を集める」ところに副社長が活躍してほしい(ちゃんと材料を集めずに、思いつきで口を出す副社長がときどきいるよねー)し、またCEOも思い切って、特定部門は副社長に判断してもらうべく権限委譲をすべきと思う。我が家でも、なんとか副社長に権限委譲すべく、いろいろ策を講じている。副社長もまだまだなので、かえってあとでフォローが大変だったりするが、そうやっていかないと、部下は育たないもんである。

そうすれば、もちっといい父の日のプレゼントをもらえるようになるかもよー。