アメリカンとコンチネンタル − 携帯キャリア戦略

・・・という話を英語ブログとNews Vineに書いた。朝食メニュー、じゃなくて、携帯戦略の話。

News Vine entry

アメリカというのは、携帯電話業界においては「文明の十字路」みたいなところだ。欧州流のやり方と、アメリカ型というか日本型というか、とにかく非欧州流のやり方が競合している。

欧州流(コンチネンタル)というのは、「GSM・世界標準」準拠型。一国の市場は小さく、それぞれにキャリアがたくさんある状態で、アメリカのような大きな単一市場に対抗するのには有効な戦略だ。GSMは欧州以外の多くの国でも使われているので、機器の規模の経済も期待できる。でも、その代わり、キャリアが好きなようにサービスやインターフェースを作りこむことができず、相互互換性は「最大公約数」的な、標準の部分までしか保証できない。このため、コンテンツ流通などではメッセージングが「最大公約数」として使われる。オープン・スタンダードで誰でも参入できるかわり、「規模の経済」が効く、ということは、仁義なき自由競争=数量の多い人が勝ち、ということでもあり、結局は膨大な数量を持つノキアエリクソンの支配する世界になる、という面もある。アメリカでも、AT&TGSM陣営であり、各種の戦略は「コンチネンタル」流である。

一方、アメリカ流といっても正確に言うと「ベライゾンクアルコム」流では、これとは対極の戦略をとる。この両者の中でガッチリしたエコシステムを作ってしまい、その中にはいるのは東大入試並みに難しいけれど、いったんはいってしまうと、しっかりサポートもするし品質保証も接続保証も後方互換性保証するし、マージンもちゃんとはいってくるように面倒を見る。端末でもそうだし、BREWのコンテンツ・サービスなどがその典型で、このおかげでベライゾンは携帯コンテンツで最大のシェア*1を持つ。最近では、MediaFLOで同じことをやろうとしているし、コンテンツの周辺でもいろいろ動きがある。ベライゾンクアルコムも、何かと「タカビー」だと業界では嫌われているが、このおかげで高品質イメージが定着し、少々他より料金や端末価格が高くても皆買う。それなりの結果を出しているとは思う。このやり方は、アップルの「iTunes+iPod」のがっちりエコシステムと似ている。ちなみに、この分類でいくと、日本のドコモは、技術的にはW-CDMAで欧州陣営にすり寄っているが、戦略のDNAとしてはベライゾン型だと思う。

別に、どちらがいいということはなく、どちらを選んでその中でどうやって最大に効果を出すか、の問題なのだが、欧米の大手業界コンサルタント会社は、どうも欧州のクライアントが多いらしく、前者の感覚ばかりでモノを言う傾向がある。それが間違いとは言わないが、それは全体の半分しか言ってないことだと思うんだけど。

ということで、「GSM+規模の経済」ばかりが勝ち戦略じゃない、と思う。アメリカでいうと、このどっちにもはいれず、真ん中で溝に落ち込んでいるのがスプリントで、そうなるとちとまずいと思うが。

ちなみに、上記の分類を見ると、なぜiPhoneAT&Tなのか、というのもわかる。テック系iPodや業界ニュースなどによると、iPhoneの電話機能部分はやはりだいぶ問題が多いらしく、AT&Tのテストをなかなか通らないという噂もあり、今に至るも製品としては未完成、にもかかわらず発売半年前に大々的に発表するのを許しちゃうなんていうことは、ベライゾンだったらゼッタイにやらない。アップルは、きっとベライゾンにも話をしにいったけど、門前払いを食らったに違いないと思う。

*1:データ売上げ比率ではスプリントが上回ったと最近言われているが、これは携帯メールなども含めた数字で、ゲームなどのコンテンツでは相変わらずベライゾンが最大、と業界内部の人から聞いている。