「サブスクリプション・モデル」屋の勝手な憂鬱

このところ、携帯業界もナニかというと動画ストリーミングが話題で、まぁそれでもうまくいけばいいんだろうけれど、今ひとつ私にはエキサイトできない気分が蔓延している。

なぜか、と考えたら、そもそも私がなぜ、私が通信業界にハマったのか、ということに帰するような気がする。私はもともとサラリーマン生活を自動車会社から出発した。一台一台、工場で作って、手間ひまかけて一台一台売って、船に乗せて輸出したりして、それで儲けていた会社である。わかりやすい商売ではある。

で、その後電話会社にはいった。アタリマエのことなのだが、電話会社というのは、交換機が電話をつないでくれるたびに、チャリーンチャリーンとお金が落ちてくる。もちろん、交換機を設置したり、電話線を保守したりという手間ひまはかかるのだが、このお金の落ちて来方が、自動車会社的な目から見ると、驚くべき「ラク」さに見えた。自動車屋が、自分で田畑を耕して大根や米を作っている農民なのに対して、電話屋というのは、地方の荘園で農民(=交換機)が差し出す年貢で、優雅に「まろは・・」などと扇をかざして暮らしている貴族に見えた。これはすごい、いい商売だ。こういうリッチな業界にいるに限る。と思ったワケだ。

その後、この貴族もそんなにラクじゃないということがだんだんわかってくる。チャリーンとお金がちゃんと落ちてくるために、交換機や伝送路の技術はもちろん、番号体系、課金技術、電話会社同士のお金の精算、さらにはアメリカで数多の「電話キャリア」が存在しているエコシステムなど、膨大で精緻な仕組みができていて、日々それなりにきちんと動いている。この精緻で膨大な体系が、外からはわかりづらい「ブラックボックス」だからこそ余計に、知れば知るほど、病みつきになるほど面白かった。例えてみれば、「ピタゴラスイッチ」で、玉がいろんな仕組みを通ってコロコロ転がっていく精緻な仕組みをワクワクしながら見ているようなものだ。

この膨大で精緻なしくみで、三分10円のサービスが、何十兆円、何百兆円の気が遠くなるほどの膨大な産業に積み上がっているという、独特の壮大感というか、スケール感というか、そういうのが私にとってのこの商売の面白さなのである。

しかし、このところ、一人一人の電話をつないだり、ネットのトラフィックをさばいたりして、お客さんからチャリンチャリンとお金をいただく地味な商売じゃなくて、一発ウン億円の広告ディールが大好きな、テレビの世界が忍び寄っている。あるいは、Google AdSenseのような、直接お客さんからではなく、上位レイヤーで一ひねりもふたひねりもして、離れたところからお金を持ってくる人々がやってくる。規模は違うが、乱暴にまとめるとどっちも広告商売なのだ。

アナリストやウォールストリートは、簡単に「サブスクリプション・モデル」「広告モデル」と並べて言うが、この二つに従事する人々の文化やメンタリティは全然違う。何に対してインセンティブがわくか、ということが全然違うので、インセンティブの体系も組織も同じではうまくいかない。Web2.0系のスタートアップの話を聞いていると、「プロ仕様サービスを有料にして、広告モデルと両方で、将来は儲けて・・」ということを言う人がいるが、そう簡単に両方できるのかなぁ?と思ってしまう。

私にとっては、広告商売というのはよくわからない。テレビ商売が遠い世界、と前に書いたのは、そういう背景もある。わからないだけでなく、いまいちコーフンしない。通信の世界の精緻なスケール感に比べて、派手だけれど大味に思える。良い悪いの話ではなく、単に私の好みの問題である。だから、冒頭の「いまいちエキサイトしない」気分になる。

タイムワーナーがAOLと距離を置き始めている。AOLだけでなく、タイムワーナーの巨大な複合事業体の中で、相互にシナジーを生んでいくというのが従来の方針だったのが、最近は事業部相互に「シナジーを押し付けない」という方針になってきた、という記事を今朝WSJで読んだ。AOLというのは、もともとサブスクリプションと広告、さらには物販も含めた収入構造を持つという、比較的特殊な例だったのだが、どうもやはり、広告商売と一つ一つモノを売る商売というのは、なかなか融合しにくいように思う。広告主優遇と、通信の中立性をどう折り合いをつけるのか、という話もあるが、そもそもやっている人々のメンタリティが違う。

放送と通信の融合が難しいのは、そういう面もあると思う。前にも書いたように、私の「放送と通信の融合」の定義は、現在の「恐竜の頭」に位置する放送コンテンツと、「ロングテール」に属する通信・ネットコンテンツの間に、中間領域が新しくできることだと思っているが、この「ミドルテール」部分が「サブスクリプション」になるのか、「広告」になるのか、このバトルがしばらく続くのだろうなぁ〜、と思う。

放送とネットの融合は「電車男型出世魚」 - Tech Mom from Silicon Valley

まぁ、両方あるのかもしれないが、Google的な「無料=広告モデル」ばかりがもてはやされるのは、やや面白くないなぁ、とつい思ってしまう。それより、やっぱりマイクロペイメント型のほうが面白いなー、と地元のチームを応援するような気分になる。ついでながら、電話会社がGoogleをやたら敵視するのも、そういう体質的な嫌悪感もあるんじゃないかと思う。これは、なかなか抜きがたいもののような気がする・・・