飽食の固定 vs. 配給制の無線

ヤシの木の基地局タワー


一昨日の無線ギークの会は大変楽しかった。あまりにいろいろな話が出て(脱線部分のほうが多かった上、予定外に当日乱入した某2人のうち一人が、大幅にエアタイムを独占して、他の参加者の方にはご迷惑をかけてしまい、申し訳なかったです・・)、まとめようもないのだが、とにかく他の分野の方の見方が聞けるというのは、本当に新鮮だった。

中島さんがこちらで書かれているお話もそのときに伺ったが、な〜るほど、あちら側から見るとそういうことだな、と納得する。IMSというのは、Dumb Pipeに成り下がりたくない電話会社が、より高いレイヤーをフィジカル・レイヤーにしばりつけることで、自分たちのコントロールを及ぼそうとする陰謀だ、というお話。全く、そのとおりだと私も思う。

Life is beautiful: CTIA2006: IMSの本当の狙い

ただ、頭の固いキャリアの側の人間からのささやかな言い訳をさせてもらうと、無尽蔵にbandwidthのある固定網ベースならば、その上を何がどれだけ流れても電話会社はやっていけるけれど、無線というのは、生まれつき制約の多い生き物であり、なんだかんだいっても「米のメシ」である音声の帯域を圧迫されるようなことが起こっては、断固として困るのである。お客さんとしても、一部の先端ユーザーを除いては、やはり音声がちゃんとつながらなければ、いくらデータサービスが立派でも、そのキャリアをやめちゃう。少なくとも、アメリカでは音声がちゃんとつながらないために、伝統あるキャリア(旧AT&Tワイヤレス)が一つ、消滅してしまったのだ。無線キャリアにとって、自分たちの貴重な周波数の上を、お金にもならないP2Pの莫大なトラフィックなどが流れ出したら、それは即「死」を意味するのである。

周波数の制約だけでなく、不細工なアンテナを立てるのに住民の抵抗があるため(日本ではそれほどでもないが)、アメリカでは基地局ボトルネックである。右上の写真は何だかおわかりになるだろうか?ヤシの木の形をした、セルラー用アンテナである。まわりの植生に合わせるために、針葉樹だとか広葉樹だとか、各種の樹木の形のものが売られており、CTIAでも、モバイル・エンターテイメントと同じぐらいの面積を、こうしたタワーやタワー管理会社のブースが占めている。また、遮蔽物対策や移動しても切れないための仕組みなど、見えないところでのオーバーヘッドが無線ではものすごく大きい。

前に書いたように、3Gになっても、基地局あたりの収容加入者数はそれほど増えない。ブロードバンド無線になると、それよりは供給増加が見込めるが、それでも、お金さえかけて線をはればいくらでも増やせる固定とはエコノミーが違う。これを打破できるほどの、ものすごい周波数効率の技術というのは、今のところまだ出現していない。周波数割り当て自体は少しずつ増えていくが、波さえ増やせば問題が解決するワケではなく、その周波数に合った機器をメーカーが作ってくれなければダメだし、それがもとで失敗した無線サービスは数知れない。

というわけで、今日のCTIA最終日のキーノート、「キャリア・ラウンドテーブル」を聞いていて、上記のようなことを痛感した。シンギュラーCEOのStan Sigman氏は、各種無線方式が混在する自社ネットワークを称して「That's not the efficient way to use our spectrum.」という言い方をした。「食べたければいくらでもおかわりしていいのよ」といってもらえる固定網上でのネット・サービスに対し、無線というのはまだまだ、食糧配給制の時代にある。

まぁ、言い訳なのだが、このように無線の世界と固定の世界というのは、発想が違う、ということを認識した上で、その上に載せるサービスを考えざるを得ない、というのは、まだまだ当分仕方ないのではないかと思う。