郵政解散とデジタル・ディバイドとネット啓蒙思想

締切仕事があるというのに、このところあまりに日本の政治の話が面白く、ブログを読み耽って、生産性が落ちて困っている。

政治劇の中味そのものにも、いろいろ言いたいことはあるのだが、まずはこの状況に及ぼすネットの役割について、考えさせられたことがあるので、今日はそこに話を絞る。

つまり、世に言う「デジタル・ディバイド」というものが、単に「田舎でブロードバンドで映画が見らるか否か」(オヤジギャグかも・・)だとずっと思っていたら、そうではなく、「情報リテラシー」に直結するんだ、という、当たり前の事実に今更ながら気がついたのである。

18世紀に欧州で民衆革命の嵐が吹き荒れた歴史の下地として、「啓蒙思想」というのがあった。簡単に言えば、「ちゃんとした判断を下すには、ちゃんとした知識と判断力を持ち、ちゃんとした情報を入手できなければいけない」と、民衆にお勉強を呼びかけたわけである。今風の言い方をすれば、「情報リテラシー」である。もちろん、当時の権力者はこの思想を忌み嫌い、民衆を愚かなままにしておきたかった。

この21世紀の今日、新聞もテレビも情報があふれかえっている中で、ブログで交わされている意見を見ていると、その昔世界史の授業と「ベルばら」で見た以来忘れていた、この言葉をふと思い出した。

完全に中立な報道などありえない。どんな報道も、作成する側の基準で取捨選択し、編集してから流されている。しかし、少なくとも私は、日本で受けた教育で、こうした目で見て判断することを教わった記憶がない。国語の授業で新聞の社説をよく読まされたが、そのときの言われ方では、素直な私には「新聞に書いてあることは正しい」という先入観が植え付けられた。ある時点で、新聞も複数読むと違うことが書いてあり、違うことを取り上げていて、「この新聞はこういう基準だからこう書いてるな」と読むべきだとわかってきたのだが、こういう職業につかなければ、それに今でも気づいていなかったかもしれない。テレビは、さらに影響力も偏向性も強い。

今なら、新聞やテレビを批判的に見て補完することは、ネットを使えば簡単にできる。特に、昨年の米国大統領選挙前後から盛り上がったブログは、その有効な手段になった。しかし、デジタル・ディバイド状態にある人たちは、それができないままだ。そしてそれは、それぞれの話題にそもそも興味を持つかどうかの問題がまずあるには違いないが、ネットの環境もある程度は作用しているのだ。

私の場合、ネットは仕事道具だから、まる一日中ネットを見ており、何か知りたいと思えば、今やネットでかなりのソースにまでさかのぼれることを知っている。企業や政府の発表内容は、探せばどこかに原文が出ている。それをまず当たり、あちこちの違う立場からの意見や報道を読んで、自分の見方や意見が固まってくる。慣れてくれば、脳の中のベイジアン・フィルターが、胡散臭い情報は瞬時にブロックする。しかし、デジタル・ディバイド状態にある人たちは、そういう訓練ができておらず、脳内フィルターのできていない人は多いのである。もちろん、ネットがなくても、賢い人ならきちんと判断できるのだろう。また、ネットを使っても、自分の気に入ったサイトしか見ないなど、やはり偏向するというのは事実だ。しかし、ネットで、しかもブロードバンドで、これだけ短い時間で効率よく情報を集めることができる状況は、まだまだ「啓蒙」の余地の大きい私にとって、ありがたいことだ。

今回の郵政解散の関連して、日本では政治評論家があちこちのテレビに出てしゃべっている。中には、ちゃんとウェブで内容を読むと、目が点になるようなことを言っている人もいる。しかし、その人がテレビに出て2-3分しゃべっただけで、見た人はここまで無茶苦茶だということがわかるだろうか。口当たりのいい部分だけを聞かされて、「なるほど、そういうものか」と思う人は多いのではないだろうか。

CBSダン・ラザーが、大統領選の関連事件をめぐる同社の不祥事で、ブログで激しく叩かれて辞任した話は有名だ。日本でも、今回の政治劇をきっかけに、こういう手合いが、ブログの力で「陶片追放」されるようになるだろうか。

逆に、マスコミがつまみ食いで作ったニュースでなく、ネットで小泉首相岡田党首が言っていることを全文読み、理解しようとする人が多くなるのだろうか。

それを促進するということが、デジタル・ディバイド解消の一つの意義である、ということに、ようやく私は思い至った。そしてマスコミが、インターネットといえば、やれ出会い系だ、犯罪だ、中毒だ、と書き立てる理由も、よくわかったのである。彼らは、啓蒙主義における権力側の人間と同じ立場だからだ。

階級の壁を取り払い、民衆を啓蒙しなければならない。歴史は繰り返す、と言うべきか、人類は全く成長していない、と言うべきか、よくわからないが。