KAGOY時代にあった児童書を!

子供関連産業が長期低落傾向にあるのは、少子化の日本だけではないらしい。アメリカでも、老舗の玩具チェーンFAOシュワルツは倒産、おなじみのトイザラスも、本業の玩具販売部門を売却しようとしており、玩具販売業界は危機にある。ウォールマートなどの量販店に押されているという要因もあるが、もっと深い根っこにある原因が、KAGOY現象と言われるものだ。

KAGOYとは、Kids Are Getting Older Younger(子供達の早熟化)の略。従来ならば8歳程度の子が喜んで遊んでいたヒーローものの人形は、今は5歳程度の子供しか使わず、子供達は6-7歳で玩具からゲームやコンピューターに卒業していってしまう。確かに、我が家の息子は8歳になったところだが、彼がトイザラスで見るものは、今やゲーム・ソフトとレゴ類だけで、店の誕生日カードのコーナーにも、8歳用のカードはもうほとんど置いていない。

この息子は、日本語が苦手である。なんとか日本語に慣れてもらいたくて、彼の読める本を探すのだが、本当に見つからない。当地の紀伊国屋書店に、児童書が少ないのは仕方ないとしても、日本に帰ったとき、地元の本屋でいくら探し回っても、彼が読みたくなるような内容で、なおかつ彼が読めるレベルの本というのが、全く見つからないのだ。しかも、本は皆立派な装丁で高価なものばかり。

子供の本というと、昔話とテレビのヒーローものの絵本、そしていかにも女性の作家がお育ちのいい女の子のために書いた、めるへんちっくな童話ばかり。いいお話なのはわかるけれど、うちのKAGOY息子が興味をもつワケがない。

そういうのを読まないウチの子がおかしい、といわれるかもしれない。そういうものを、読まなければいけない、と言われるかもしれない。でもアメリカには彼が喜んで読む英語の本がたくさんある。たとえば、テレビの人気マンガのお話を、漫画でなく文章で書き下して挿絵をつけたもの。スポンジボブやジミーニュートロンのお話が、章立ての本になっている。レゴでキャラクターをつくり、絵本にしたものもある。それから、彼の好きな科学や、有名な人物の伝記などについて、一つのテーマを選んでわかりやすく書いて、写真や絵もふんだんにはいっているような、短いノンフィクション。「深海のひみつ」「水の変化」「自動車王フォードの自動車レース」などといったテーマの本が、いくらでもシリーズである。

しかも、これらの本は薄くて、集中力が長く続かない子供でも一気に読み終われる。達成感が持てる。そのかわり、表紙もぺらぺらのペーパーバックで、値段も安い。読み捨てにしてもあまり気にならない。そういうわけで、ますます彼は日本語を読まず、英語ばかりになっていってしまう。

日本の子供達が、KAGOY現象において、ウチの息子とそれほど違うとは思えない。子供達が本を読まないことを、ゲームやコンピューターのせいにしてばかりいないで、こういう子供達が喜ぶような、それでいて読む力をつけられるような、そういう本を業界が提供するべきなのではないだろうか?私たちが子供の頃に面白いと思ったものと、今の子供達が面白いと思うものが違っていて当然だ。親の私でさえ、日本の本屋の児童書コーナーでは、「こういうのがいい本です」と押しつけられている強迫感を感じる。それ以外は、今度は完全に迎合した漫画やカタログものしかない。なんとかしてほしい。ウチの息子に、少しでも日本語を読むインセンティブを与えてほしいものだ。