レモネード・アントレプレナーシップ
この間の日曜日、夏のように暑い日だった。私は体調が悪くてぶっ倒れていた。こういうときに限って、亭主は出張中。友達何人かに電話してみたけれど、ちょうど春休みの初めだったので皆不在。ほっといたら子供たちは一日中Xboxに張り付いている。かろうじて起き出して昼ごはんを食べさせながら、「午後はゲームじゃなくて、何か外でしようね」と話し合い、プールに行こうかということになった。でも、私の体が言うことをきかない。「じゃあ、出かける前に、ちょっと一休みするね」といってベッドに倒れこんだまま、動けなくなった。
ああ、起きなきゃ、プールに行かなきゃ・・ともうろうとした頭では思うのだけど、金縛りにあったように体は動かない。子供たちは車で運搬しないとどこへも行けないという、アメリカの親の一番つらい場面だ。
しばらくすると、キッチンでガタガタ音がしだした。兄(6年生)と弟(1年生)が、「そのまな板を出して」「イエッサー!」とかやっている声が聞こえる。ああ、レモネードを作り出したな。少し前に、お隣のおじさんが、庭になったレモンを大量にくれた。それで先日、二人にレモネードの作りかたを伝授した。グルメの兄は、「砂糖だけじゃなくて、蜂蜜を入れたらどうかな」など試しながら、なかなかおいしいレモネードができるようになっていた。
しばらくしたら、玄関のドアを開け閉めしたり、何かを運び出したりしている音がしてきた。兄がベッドルームに飛び込んできた。「レモネードを売ることにしたよ。」ああ、そうか。前回も、売りたがっていたけれど、あの日は寒くて断念した。今日は暑いから、ちょうどいい、と思ったんだな・・・「いいよ。」とだけ返事をした。
なんとか起き出して、状況を見ると、もうすでに必要なものは全部そろっている。プラスチックのジャグに氷を入れたレモネード、ジャグとセットの涼しげなプラスチックカップ(彼らは学校でしっかりエコ教育されているので、紙コップは使わない)、「Lemonade 50cents」と大きなフォントで印刷した紙、折りたたみテーブル。「だめだ、そこじゃなくてこっちに貼り付けろ」など、兄が相変わらず弟を指図してやっている。おつり用の25セント硬貨だけは彼らが持っていなかったので、私が用意してやった。
しかし、タダでもらったレモンのほか、材料費は砂糖と蜂蜜ぐらいしかかかってないのに、50セントは高くないか?とちょっと思ったけれど、彼らに任せることにした。そこはうまく考えていて、「売上げの一部は、学校でいま募金を集めている白血病協会に寄付するんだ」そうだ。
私がついてやらなければいけないのだろうけど、まだ体が動かない。家のすぐ前に店を出してやっているのは窓から見える。暑いのであけっぱなしのドアから、声もよく聞こえる。何かあれば、兄が携帯で電話するだろう。だいたい通るのは近所の人ばかりだろう。いいや、任せよう・・・・
その後、また私の記憶は途切れ途切れだが、「Lemonade, 50cents!」と弟が大きな声を張り上げているのが聞こえる。ときどき、お客さんが来ているらしい話し声が聞こえる。
1時間半ほどで、作った分は完売したらしく、二人は戻ってきた。夕方近くなって、ようやくベッドから起き出した。予想通り、キッチンにはレモンを絞ったあとの皮が散乱し、床は砂糖がこぼれ、玄関には折りたたみテーブルを放り出したまま。「片付けなさい!」と一喝する力が戻るまで、怖くて起きられなかったのだった・・・
片付けを手伝いながら、経緯を聞いた。お友達とお父さんがたまたま通りかかって買ってくれた話、近所の人が何人か買ってくれた話。まだ6歳の弟が「レモネード、買ってください」と言えば、そりゃ近所の人は断れないよね。特に、「売上げは寄付します」という殺し文句がついて、それで断ったら正しいアメリカ人とは言えないよね。(笑)近所の人にしても、子供がレモネードを売るというのは「日常のほほえましい風景」。「近所のおばあちゃんが、1ドルもくれた。」「今日は暑かったから、パーフェクトだったんだよ。」兄弟は興奮して話していた。
CEOである兄は、売上げのうち1ドルだけを寄付することにし、あとは山分け、ということに決定。「え、なんだそりゃ!」と思ったけれど、彼らのお小遣い稼ぎというインセンティブもないといけないだろうし、まぁこれも、任せることにした。
アメリカの子供が最初に試みる伝統的アントレプレナーシップ、「レモネード売り」。これもまた、のどかなアメリカの風景。