お久しぶりの「パラダイス鎖国」と「情報発信」を閉ざすことについて

パラダイス鎖国」という話をこのブログに書いたのは2年前のことで、そろそろ書くことも尽きているので今更なのだが、たまたま雑誌に「パラダイス鎖国について書いてください」という依頼があり、まーいっぺんぐらい活字になるのも悪くないかな、と思って、短いコラムを「月刊アスキー」に寄稿した。6月24日発売。

http://monthly.ascii.jp/

・・・という話を書こうと思っていたところ、ちょうど今日、渡辺千賀さんと梅田望夫さんが、まるでみんなでsyncしたように、関連するエントリーを書かれており、タイミングのあまりのよさにちょっとビックリ。

日本は世界のブラックホールか桃源郷か | On Off and Beyond
海外に住んでも母国語中心に生きること - My Life Between Silicon Valley and Japan

それと、私も書いたことのある、携帯電話のパラダイス鎖国問題のこんな記事も、ちょうどはてブを集めている。
第1回:世界を席巻するはずだった「日本発W-CDMA」 | 日経 xTECH(クロステック)
パラダイス的新鎖国時代到来(その4)- 産業編・携帯電話端末のケー - Tech Mom from Silicon Valley(→こちらは私の過去のエントリー)

千賀さんが言うように「パラダイス鎖国でいいじゃん」「ガラパゴス桃源郷」と割り切る考え方もあるな、と私も思う。パラダイス鎖国の一連のエントリーでも、「これでもいいのかな?いけないのかな?」と煮え切らない態度で書いていたのが本当のところ。ただ、携帯や通信の世界では、どうも「パラダイス鎖国」の影響がボディブローのように効いてきて、特に機器メーカーの競争力や収益力に悪影響が出ているような気がするし、世界の中で日本がrelevancyを失っていくのは、やっぱりどうもイヤだなー、という気持ちもある。(まー、これは私のサラリーマンライフの出発点がホンダだったから生まれてくる一種の「偏見」なのかもしれないが。)だから「パラダイス鎖国」のエントリーでも、後半は「脱パラダイス鎖国」というトーンに変わったわけだ。

一方、梅田さんのエントリーにも共感するところは多い。私も、初めてアメリカに来た30年前は、1年の間、日本語は家族や友人との手紙と、年に3回ほど他の日本人留学生と会うときしか使わなかったが、今は無理してそんな世界に住む必要もない。ただ、コメントでは主に、情報を受容するケースを念頭に置いているものが多いが、逆方向の「発信」をしないで閉じこもって、それでもやっていけるんだけど、それだけじゃぁちょっと面白くないよなー、というひっかかりが相変わらず残る。

いや、もしかしたらそんなことはどうでもいいのかもしれない。千賀さんが例に挙げている、「日本にはワンセグっていうすごいテレビ携帯があって、こんなに進んでるんだゾー」といったようなことを、私は敢えて英語でブログに書いた。「モバゲータウン」のことも、「顔ちぇき」のことも、書いた。そういうことを、携帯のconferenceで英語でしゃべろうと思って応募もしている。でも、どうせこんなもの、読む人も聞く人も少ない。誰も興味持たない。商売にもならない。世の中的には、なんの足しにもならない。そうなんだろうな。

NBC News - Breaking News & Top Stories - Latest World, US & Local News | NBC News
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それは、私がしばらくやっていた「邦画の英語情報」サイトを「やんぴ」しようと思った状況と同じ。一連の自分のやっていることをいまだに疑問に思ってはいるが、でも、邦画サイトについては、「ヤンピ」宣言をしたら、「やめないで」というコメントが思いがけずたくさんはいってきて、ちょっと驚いて、細々と続けることにした。だから、「ワンセグ」の話も、表面化はしないけれど、実は面白いと思って読んでいる人がどこかにいるのかもしれない。

パラダイス鎖国を、国家とか全産業とかのレベルでどうすべきだ、なんぞという大きな話は私にはよくわからない。きわめて個別の話で言えば、携帯端末に関しては、いかに大きいといっても日本だけの市場(特に日本ではメーカーの数が多すぎ)では、世界で売っているメーカーと比べてスケールが違いすぎ、(一方海外の安い端末は日本のあまりに進んだ市場に合わず)明らかにコストが高く、そのためにメーカーは儲からない、キャリアは高い補助金をはらわにゃならん、ユーザーは高い料金をはらわにゃならん、という、誰もハッピーでない状況になっているのは間違いなくて、これはやっぱり、なんとかしたほうがいいと思う。ネットワーク・インフラ機器はもっと深刻な状況。でも、それ以外の産業についてはよくわからないし、ケースバイケースなんじゃないの、としかいえない。

情報のやりとりについても同じ。別に、誰もが英語でどんどん話ができて情報発信ができるようにならなきゃいかんことはない、というよりそんなの無理。でも、個人のレベルでいえば、英語で書いてみたら、思わぬところで興味を持っている人に感謝されたり、友達ができたり、思わぬ発見や役得もある。日本の情報を知って面白がってくれる人がどこかにいる。日本独特のアイディアや製品をアメリカに持ってくることで、もっといいものができあがるかもしれない。日本人だけが中で楽しくやっていくという話だけじゃなくて、その外側にいる人も仲間に入りたい人もいるんじゃないか、そしたら入れてあげてもいいんじゃないか、という話。そういった「発信側」の役割を、楽しいとか意義があるとか感じる人だけがやってればいいのだけれど、極めて個人的な感覚としては、そういう人がもっと増えてほしいなぁ、とは感じている。

私なぞ、英語が下手だから苦労しながらやっているのだけど、私の子供たちは、きっと苦労せずにごく自然体で、「dude, Japan is so high tech, like you wouldn't believe.」なんてやるんだろうなぁ。外国出身の友人たちも、訛り丸出しの英語で、別に構えることなく自然体で、自分の国のことを語っている。それはそれで、面白いんじゃないかな。その延長に、何か新しい世界ができてきたら、面白いんじゃないかな。

千賀さんみたいにうまく言い切れないのだけど、まぁこんなところが私の感じているところ、ということで、今日はご勘弁を。<追記>
なるほど!下記、コメントの「開発者」さんのおっしゃること、目から鱗です。パラダイス鎖国で何がいけないのか、ということについて、なかなか自分でもすっきり言い表せなかったところでした。こうして企業の無理のために個人は「武士は食わねど高楊枝」状態を強要され、しかも「言語の壁」と「すでにある程度の生活レベルのあるぬるま湯の蛙」のために、途上国の移民のようにさらりと国を捨てることもできない。でも、高楊枝はいつまでも続かない。なんか、こういう無理な状態をやっているような気がします。それであっても、グローバル化に正面から戦うよりも、まだいいのかなぁ?パラダイス鎖国が続いているってことは、そのほうがいい、と思っている人のほうが多いんだろうなぁ・・・